いやぁ、ROLLYは本気だ。今回の結成30周年記念ライヴを全国ツアーという大がかりなものにしたかと思いきや、追加ファイナルとしてshima-changが復活する17年ぶりの渋谷公会堂公演を来年2月9日(土)に行うことを発表。彼女は3年前に事故で脳挫傷の重傷を負い、その後リハビリ中と聞いてはいたものの経過が心配されていただけに、この知らせには会場中が大いに沸いた。そして現在新たな音源を制作中であり、いずれライヴ会場で販売することも告げるなど、今再びすかんちの真価を世に問おうとする意欲が漲りまくり。そんな決意表明の場として行われたツアー初日のこのライヴ、これまでもアニバーサリーの節々で断続的にライヴを行ってきた彼等だが、雰囲気はこれまでのそれとはガラリと違っていた。以下、披露された楽曲名を含みつつレポートしますので、以降のライヴに参加予定の方はネタバレにご注意ください。
まずは結成30周年を祝福するべく、この日はゲストに筋肉少女帯が先陣を切って登場。鍵盤に三柴理、ドラムに長谷川浩二という近年のレギュラ―6人編成で現れるや、1曲目からいきなり懐かしくも今なお即効性充分な“釈迦”をぶっ放し、場内を一斉に「ドロロのノウズイ~」という大合唱に導く。オーディエンスは早速満面の笑みで腕を掲げて応戦。って「ちょっと待って。あなた方、すかんちのファンなんじゃないの?」と一瞬問いかけたくなるような風景だったが、いや、今にして思えば90年代のメジャーシーンでアクの強いキャラクターを中和させることなく、早過ぎたトリックスターとしてそれぞれに奮闘し続けてきた両者。その心意気は自ずとオーディエンスにも共有されているのだな、と改めて深い感慨に浸ってしまうシーンから、今日のライヴはスタート。
最初の挨拶で大槻は、実は筋肉少女帯も結成30周年を迎えるタイミングであり、往時はイベントですかんちと共演した思い出も多々あることから、戦友意識は殊更に深いことを、まず強調してくる。「すかんちさん、結成30周年おめでとうございます」と祝辞を述べながらも、「この2バンドの共通点を挙げるならば…“ロック界の盲点”(場内、爆笑)。今後のロック史において外される、しかも意図的に外されそうな…俺は許せない! それではどうするのかと問うならば、今日のライヴを盛り上げるしかないじゃないかぁ~」と、最早すかんち30周年も他人事ではないテンションで怒鳴り始める様子が可笑しくもリアル。現在“日本印度化計画”が子ども向けテレビ番組『ピラメキーノ』に起用されている経緯から「アラフィフ・バンド、再ブレイク!」と意気も盛んに同曲になだれ込み、それでもその後は「すかんちファンのみなさんにも好きになってもらえそうな楽曲」として、摩訶不思議な主人公が登場する空想ストーリー“ゴミ屋敷の王女”“少女の王国”といったナンバーを披露する気遣いを見せ、最後は“イワンのバカ”“トリフィドの日が来ても二人だけは生き抜く”という2曲を配した盤石のメニューを披露。橘高の「次はすかんちです。最高のロックンロールを楽しんでください」という丁寧な一言とともに彼等はステージを後にした。
そして約20分のインターバルを挟んで、すかんちの時間。中央のROLLYを取り囲むように、オーディエンスから見て左から、キーボードの要塞(アナログ機材多し)に鎮座する小川文明、奥にドラムの小畑ポンプ、すぐ横にはshima-changのピンチヒッターとしてベースに佐藤研二(マルコシアス・バンプ。左手にはお馴染みの白手袋)、そして右端に電子キーボードを前にしたドクター田中(黒スーツ姿、サングラスは赤いフレーム)と、ルックスからして濃いめのメンバーが並ぶ。そんな中、ROLLYの「ロックスター」としてのコテコテなこだわりぶりが、いつもながらに頼もしい。鮮やかな青のジャンプスーツに身を包み、サングラスにはギラギラの光沢、そしてサラサラの金髪を揺らしながらラベンダー色のストラトキャスターを構える姿からして、早くもすかんちらしいグリッター感が満載である。
セッティングが完了するや、まずはドラム小畑の刻む~ドンドン、パ。ドンドン、パ~というリズムからライヴはスタート。この日のオーディエンスなら立ちどころに思い出すクイーンの“We Will Rock You”が、まずは場内にハンドクラップの渦を巻き起こす。ひとしきりギターをかき鳴らした後、ROLLYの歌い出す「これから始まるロックンロール・ショー!」という日本語の歌詞に、オーディエンスが「お!」という表情で一層聴き耳を立てていく様子もいい。まずは会場全体に「We Will,We Will Rock You!」のコーラスを巻き起こし一体感を高めたところで、続けざまにキラーチューンの“ウルトラロケットマン”が演奏され、いよいよ期待に応え倒していくメニューへの突入となる。この曲が始まる直前にサングラスを外したROLLY。そこにあったのは真っ青なアイシャドーに青のコンタクトという青づくしの表情で、またしても場内に歓声を巻き起こす。
得意の70年代ブリティッシュロック・テイストを全開にしたこの曲で、シャウトそしてギターソロと早速存分に本領を発揮するROLLY。最初のMCからして早くも興奮気味に「Hello ,everybody!」と来日ミュージシャンふうに英語でたたみかけるも、すぐさま「筋肉少女帯、30周年おめでとう、拍手!」と礼節を欠かさないところも、この人らしさ。さらに「今、この会場のどこかで見ているshima-changにも拍手!」と、残念ながら本ツアーに参加出来なかったオリジナルメンバーへの配慮を見せるところも胸を熱くさせる。
そういうROLLYのお人柄もあり、このツアーに集合した各メンバーへの配慮が行き渡っていた点が、このライヴの特徴のひとつだった。人気ナンバーを中心にしながらも各人を順番にフィーチャーしていく流れは、ROLLYの独壇場となることを自ら周到に避けたもの。これはROLLYからすれば当然の美意識なのだが、各メンバーが凌ぎを削り合ってこそバンド、というこれまた70年代的なバンドの在り方を強く押し出していたところが象徴的だった。3曲目の“Mr.タンブリンマン”に続き、早速、ドクター田中がメインヴォーカルを取る“恋人はアンドロイド”が披露されたほか、終盤の“MANGO JUICE”では佐藤がアンプによじ登ってのベースソロから曲はスタート。同曲では小川がマイクを片手にステージ中央で歌う姿を見せる一方、小畑のドラムソロもフィーチャーされるなど、すかんちというバンドを今一度グレードアップさせていこうとする意欲を、しっかりと認識してもらおうとする心意気が一貫していた。そして、すかんちといえばクイーンやスイートに代表される70年代ロックの特徴だった重厚なコーラスワークもポイントだが、ROLLYを軸に田中と小畑で一斉にオペラチックな歌声を聴かせる場面も往時と変わらず冴え渡っており、それは“ラブレターの悲劇”そしてオーディエンスも一緒になって合唱で加勢してくる“恋のショック療法”などで、しっかりと発揮されていた。
もちろん、ROLLY自身もそこかしこでぬかりなくパーソナリティーを発揮。ワウぺダルを踏みながらの長尺ギター・ソロ、曲イントロでシタ―ル風のアドリブを聴かせる等の手練も自由自在。珍しく「カヴァーをやります」と言って、小川のミステリアスなピアノをバックにレッド・ツェッペリンの“ノ―・クォーター”のリフを弾き始めたかと思いきや、そのままはっぴぃえんどの“かくれんぼ”を歌い出すという、いわゆるマッシュアップの手法まで見せるなど、あの手この手のアイデアでオーディエンスに驚きをもたらしてくる。
そんな特盛りメニューで、本編を正味1時間ほどで駆け抜けるも、もちろん場内は「We want すかんち!」のアンコールを求める声で埋め尽くされる。すぐさま5人が再登場し、ROLLYから先に記述したようなこれからの予定についての報告が行われる。付け加えておくと、全国を回る直前だというのに近々で11月14日(水)にZepp DiverCity Tokyoのイベントで氣志團、女王蜂、黒猫チェルシー、齊藤ジョニーと対バンすることも発表。そして「すかんちにはヒット曲というものが無いんですが、それでもこの曲なんかどうかな?」と言って始まったのは『ダウンタウンのごっつええ感じ』のテーマ曲になった“恋のマジックポ―ション”。最後は筋肉少女帯のメンバーを招き入れ1曲共演し、3時間以上に及んだツアー初日の幕を下ろした。
最後、両バンドのメンバーがそれぞれに握手を交わし、言葉は無くとも互いのさらなる奮闘を讃え合っていた様子も、30周年のアニバーサリーに留まらない新たな意欲を強く感じさせる風景だった。そういえば、ライヴ中、ROLLYはふと「すかんちって、武道館やったことないんですよね。似合わないと思うけど、一度はやってみたいですね」とも話していたので、続報に期待したいと思います。(小池清彦)