YOUR SONG IS GOODやSAKEROCKなどを輩出してきたカクバリズムの10周年を記念した東名阪ツアー「カクバリズム 20years Anniversary Special」。そのファイナルとなった新木場スタジオコーストは、外に出たら雨降りなんて天候を感じさせないくらい、満員御礼のミッシリ熱気。15時にはじまり、名物社長・角張渉氏の軽妙なMCを挟みながら、所属アーティストや所縁が深いゲストアーティスト、総勢10組がライヴを繰り広げ、終演したのは22時40分! 長い!濃い!と思うでしょう? でも、ずーっとダレることもなく至福感が漂っていたのだ。
初っ端のTUCKERは、たった一人でエレクトーンをはじめとした様々な楽器を操り、ループさせ、火まで点けてしまう、目にも耳にも鮮やかなパフォーマンスを展開。一組だけステージではなくDJブースに登場したサイプレス上野とロベルト吉野は、「俺たちだけなんでここなんだよ!」と言いつつ、高く狭い柵の上に立って果敢に煽る。「ここ、渉くんの家でしょ? ヒップホップ流に言うと、ヤサなんだよね」という粋な言葉ではじまった『ヤサの詩』では、会場を見事に自分たちの“ ヤサ”にしていた。男女混合音楽集団(この方がバンドっていうより相応しい気が)片想いは、のどかな中に熱さが、夢の中に毒があるような不思議な世界観で、初見の人のハートもキャッチ。角張社長とceroの高城晶平が現れて、ワイングラスで乾杯するという洒落た演出もほっこりした。初期からカクバリズムを支えているMU-STAR GROUP(以前はMU-STARSでした)は、大きな会場を生かした映像と生ドラムが躍動し、クールなんだけどロマンティックな空間を作り上げていた。
そして、2ndアルバム『My Lost City』をリリースしたばかりで抜群の注目度だったcero。リハから、さりげなくTM NETWORKの『Get Wild』を鳴らして歓声をかっさらったかと思えば、ライヴでは生感と今感をぐるっと心地よさで覆ったようなサウンドで、さらに弾き付けていく。高城は「アーティストとレーベルは対等じゃなきゃいけないって角張さんは言ってた」という、カクバリズムの背骨のようなエピソードを明かしてくれた。ヒップホップ・シーンで活躍してきたイルリメ率いる(((さらうんど)))は、リハから喋っていたイルリメのムードをそのままに、不思議と親しみやすいシティポップを響かせていく。カクバリズムのスタッフやアーティストへの感謝の言葉を告げ、最後はバンドメンバーも楽器を置いて前に出てハンドクラップし、一体感を生み出していた。続いて、流石は紅一点の二階堂和美、ステージに出てくるなり周囲が明るくなる。♪ラララから♪バリバリに代えたコール&レスポンスをしたかと思えば、「疲れるね、体操しようか」とみんなに伸びをさせる奔放さが眩しい。圧倒的な歌唱力で最後の『お別れの時』を歌い終えた時に起こった拍手は、これぞ称賛と言える音色だった。キセルは辻村豪文が「こんな緊張感があるイベントはないなって」と言っていたが、見事に不変の美しいハーモニーを聴かせてくれた。辻村智晴が「最後の曲です」と言った時に返ってきた「え~!」という声。静かに沸々と盛り上がる彼らのライヴを象徴するような場面だったと思う。
そして、リハで出てきた星野源が「凄い人口密度ですよ!」と驚くくらい、オーディエンスが渇望感を見せていたSAKEROCK。リハでメンバー紹介をして、そのまま社長を呼びこんでしまう、このホーム感もカクバリズムならでは。ギターは辻村豪文(キセル)、ベースは吉田一郎(ZAZEN BOYS)、キーボードは池ちゃん(レキシ)、そしてストリングス3人という見た目も壮観なサポートメンバーと共に、ゴージャスで新鮮な音像を生み出していく。各々のソロでも大歓声! そして『サケロックのテーマ』の前に「ある人のきっかけが必要」と呼ばれたのは、もちろん角張社長。嘗て披露した吉川晃司バリのシンバルキック(エアだけど)を蘇らせていた。さらにはハマケンを食うくらいに池ちゃんのキャラも全開で、星野の「例えば?」という振りから米米クラブの『君がいるだけで』を踊りつきで歌うという一幕も。とにかく楽しく華やかに振り切りながら、最後はバンド三人だけでドラムに向き合い『インストバンドの唄』を演奏したところも、彼ららしかった。
最後はもちろん、YOUR SONG IS GOOD! リハから、ほんっと待ってました!と言わんばかりに踊り出すオーディエンス。ライヴでは、JxJxが「10年前に作った曲やります」と、彼らにとってもカクバリズムにとっても基盤となったようなナンバー『10 INCH STOMP』を披露。ずっと聴き続けてきた曲だけれど、圧が増しているような気がするのは、10年分の経験と思いの表れか。 さらに、今なおメンバーがめちゃめちゃ楽しそうなところが気持ちいい。そしてJxJxは、カクバリズムのスタッフの一人一人の名前を挙げてねぎらい、「カクバリズムは、今日だけは世界で二番目にカッコイイレーベル。一番はディスコードかレスザンなんで」と彼らしい最高の賛美を贈っていた。袖で踊りまくる社長や出演者の姿もチラホラ見える大盛況を見せ、本編が終了……かと思いきや、すぐにステージに戻ってきて、「せっかくなんで、みんなで何かやろうかと」とJxJx。そして、今日は参加していない、初期にリリースしていたアーティストの名前をたくさん挙げて、まずはユアソンだけで演奏をスタート。JxJxはカウベルを持ち、DJブースまで駆け上がって、十二分にホットにしたところで、今日の全ての出演者をステージへ呼び込んでいく。こういう場面って、困った顔やシャイな顔をしている人もいるものだけれど、カクバリズムに関してはゼロ! そして角張社長が「帰りながら聴いて下さい、ザ・蛇足」と言って、『Build Me Up Buttercup』(The Foundations)を、カクバリズム・リリックに変えて熱唱! ステージもフロアも、人と愛でいっぱいいっぱいに満たして大団円となった。
ステージ上の「ライブハウスで声かけて下さい、一杯奢りますんで」とか、「俺はヘラヘラしてるけど、音楽はしっかりしてるから」という発言からも伺えるけど、ほんとこの人、どんなに成功しても10年以上キャラも見た目も変わらない。だからこそカクバリズムは、イヤな大人な匂いがしないエンターテイナーばかりが集まって、純粋な音楽好きに愛されているのだと思う。まさにジャンルとか関係ないけど渉くんっぽい=カクバリズムなレーベル。全ては人が作っていくんだなあ――帰り道にはしみじみと、そんな当たり前のようで素敵なことを考えていた。(高橋美穂)
『KAKUBARHYTHM 10 YEARS ANNIVERSARY SPECIAL』@新木場スタジオコースト
2012.10.28