東京スカパラダイスオーケストラ @ SHIBUYA O-EAST

東京スカパラダイスオーケストラ @ SHIBUYA O-EAST
東京スカパラダイスオーケストラ @ SHIBUYA O-EAST

クラブ・サーキット2012「欲望」

今のスカパラの勢いは凄い。今更何を言っているんだというようなことを最初に書かねばならないぐらいに、凄い。『欲望』というニュー・アルバムに触れて、こういうツアーになることはある程度予想出来ていたのに、それでもびっくりするぐらい凄かった。2012年内に全国18本が予定されているクラブ・サーキットの初日、SHIBUYA O-EASTである。一般的には決してサイズの小さいハコではないが、スカパラのワンマンとしてはやはり異例の小規模ライヴであり、当然フロアは満員である。ツアー初日ということでセット・リストや演出の詳細には触れずにレポートを進めるけれども、今後の日程を楽しみにしている方は閲覧にご注意を。スカパラの勢いがとんでもないことになっている、ということを胸に、各公演に臨んで頂ければと思う。

それにしても、狭い。オーディエンスのフロアもそうなのだが、ステージ上が狭い。総勢9名のスカパラ・メンバーが並び、欣ちゃんのドラム・セットと沖さんのキーボードの隙間、まるで都会の住宅事情を象徴するようなスペースに、ベースを抱えた川上が収まっている。場面によってはお馴染みの北原によるトロンボーン・ヘリコプター(吹き鳴らしながらぐるぐると縦軸回転し、他のメンバーが振り回されるトロンボーンをダッキング気味に躱す)が飛び出したりするものの、広い特設ステージに立つスカパラのように自由に動き回るのは困難だし、「見せる」ライヴを繰り広げることが出来ない。

東京スカパラダイスオーケストラ @ SHIBUYA O-EAST
だからこそのクラブ・サーキットなのだ。全編が一発録りで生み出された『欲望』というアルバムの、生々しい躍動感と性急なスピード、とめどなく溢れ出る感情表現のメロディ、それらが一緒くたに、密集したメンバーの楽器からぶっ放されるという、ほとんど縛りプレイに近い音楽の興奮こそが、今回のツアーのキモなのだと思う。何かに駆り立てるようなメロディのリレーが駆け抜ける、NARGO作の“非常線突破”。アップリフティングなスウィンギン・グルーヴで飛ばす、沖さんの“Wild Cat”。タガが外れたようにバースト・アウトする アンサンブルが強烈な、川上による“Rushin’”と、明らかに『欲望』の収録曲がステージ全編の軸となって熱狂を支えている。

東京スカパラダイスオーケストラ @ SHIBUYA O-EAST
『欲望』の楽曲は、たとえアップリフティングな曲調であっても、哀愁に似たエモーショナルなメロディを湛えているものが多い。しかし、哀しみでずぶ濡れになるのではなく、むしろ乾き、渇いている。欲望の性に突き動かされ、疲れ果てているはずなのに足を繰り出し続けているような、そんな大人びた、渇いた哀しみだ。ときには、そんな人間の性を客観的に眺めて嗤うような、コミカルな音楽になってしまっているようなところさえある。ちょっとどうかと思うぐらいにメロディが雄弁で、それらが畳み掛けるように押し寄せてくるのが『欲望』というアルバムだ。そんな楽曲群が、スカパラの9人の佇まいに、めちゃくちゃ似合っている。さまになっている。気取ってみたり、虚勢を張っているよりも、押し寄せる渇いた哀愁がかっこいいのである。

イタリア映画やマカロニ・ウエスタン、或いは黒澤作品のような、ハードボイルドで生々しい人間臭さと哀しみとコミカルさに彩られたミクスチャー音楽を次々に描き出しつつ、そんな中で欣ちゃんがリード・ヴォーカルを務めた“Jailhouse Rock”も 面白かった。エルヴィス・プレスリーのカヴァーというよりも、ブルース・ブラザーズ版をゴージャスにしたような、ビッグ・バンド・スウィング風のやつ。やはり、ゴージャスで賑々しいほどに哀しくて、コミカルなのだ。

東京スカパラダイスオーケストラ @ SHIBUYA O-EAST
作品を生み出してツアーして自主イヴェントも敢行して外部プロジェクトもあって……というスカパラ・メンバーの世界を股にかけた弛まない活動。多くの楽曲が生み出されるのはまだ分かる。作曲を手掛けるメンバーがたくさんいるからだ。しかし、バンドとしてモチベーションを維持し、ひとつの目標を共有して全速で走り続けることは、いかにスカパラとは言え大変なのではないか。谷中は、お馴染みの「戦うように楽しんでくれよー!!」という決め台詞へと至る今回のMCを、「今を生きるって本当に難しい」と切り出した。MCらしいMCはこのときぐらいで、あとはひたすら曲また曲というパフォーマンスだったのだが、その言葉には重みがあった。下手すると今の時代にはネガティヴなものとして目に映りかねない、「欲望」という人間の性を映し出したこのテーマを、スカパラは異様なまでにポジティヴかつエネルギッシュな音楽に落とし込んでみせた。これが抜き身の、素っ裸のスカパラの姿なのだ。あの9人の男たちは、加速し続ける活動の中で、こういうリアルなテーマと向き合うことでしか、新たな目標を共有することができなかったのではないかとさえ思う。

モッシュにジャンプにスカンキングにと、ひたすら跳ね上がってはうねり続けていたフロア。アンコールまでを駆け抜け、客出しSEとしてある曲が場内に響き渡ったのだが、完全に欲望に火がつけられてしまったオーディエンスは大合唱で歌いまくり、なかなか帰ろうとしない。スカパラもファンも、その欲望ゆえに最高だし、手に負えない感じだ。今後の各公演もたいへんな盛り上がりを見せるに違いないし、何度でも書くが、心して臨んで欲しいと思う。(小池宏和)
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