MIKA @ 新木場STUDIO COAST

2010年の東名阪ツアー以来となる、3作目のアルバム『ジ・オリジン・オブ・ラヴ』を携えたミーカの来日公演は、歓喜の涙を堪えずにはいられない、感動的なライヴだった。今回は東京と翌5/15の大阪というスケジュールであり、本レポートではネタバレを含むので、大阪公演に参加予定の方は閲覧にご注意を。公演終了後に読んで頂けると、たいへん嬉しいです。

いかにミーカほどの巨大な才能の持ち主であろうとも、デビュー後2作のアルバムと、極限のエンターテインメントであるライヴ空間が生み出した狂騒は、想像も及ばないほどのプレッシャーとして彼自身にのしかかっていたのではないか。彼自身を救済するべく徹底的に音楽の歓喜を突き詰め、手作り感たっぷりに構築された楽曲やステージの、その箱庭の王国の王子様だったはずのミーカは、今や世界中の人々の期待に応えなければならない国王の立場に置かれているはずだ。もちろん、昨年リリースされた『ジ・オリジン・オブ・ラヴ』もそんな期待に応えた素晴らしいアルバムだったわけだが、2009年の一夜限りのワンマン、宇多田ヒカルとのデュエットも思い出されるスタジオコーストで、ミーカは国王として何を見せてくれるのか。そんな思いで会場に足を運んだ。

白地にグリーンのドットが打たれた、無数の三角旗が吊り下げられたチャーミングなステージはいかにもミーカ。いや、ミーカらしさを残しつつ、ちょっとだけシックになっているだろうか。パーカッション含むバンド・メンバーが先に登場して、新作の先行シングルであった“Elle Me Dit”の四つ打ちキックが打ち鳴らされたところに、大歓声を浴びてハットを被ったミーカが「コニチハー!」と姿を現す。ステージ・デザインと同じく、グリーンのドット柄のガウンを羽織った一般日本人女子と思しきダンサーたちを招き入れ、いきなり盛大なハンド・クラップを巻き起こすのだが、ミーカ、冒頭は声が上手く出ていなかった。ハンド・マイクで懸命に煽り立て、“Relax, Take It Easy”まで2曲続けてアップリフティングな4つ打ち曲を配置する辺りには、ライヴ導入部で巨大な期待&プレッシャーと折り合いをつけるようなスタンスが窺える。

しかし、ミーカ自らステージ中央のピアノに向かってイントロを奏で、「元気だったかい……ずっと会えなくて、ホンっト~~に寂しかったんだよトーキョー。(一瞬、ピアノを止めて)君たちも寂しかった?」と語り出した途端に、時間と空間が一気にミーカのものになってゆく。力むでもなく、穏やかに自分のペースでライヴをコントロールし始めた。そして弾むようなフックが心地よい“Blue Eyes”から、鍵盤の淵に組んだ両足を投げ出してご機嫌に披露される“Billy Brown”と、フレディ・マーキュリーもかくやという歌声が本領を発揮し始める。大半の楽曲のライヴ・アレンジはイントロが音源とは違っていて、ミーカの歌い出しで大喝采&大合唱スタートというインタラクティヴな仕掛けが施してあり、そしてミーカは歌いながらダンサーを前に片膝をついたり、軽くパントマイムを披露したりと忙しなくサーヴィスも盛り込む。“Origin of Love”に至っては、音源での多重コーラスをオーディエンスのシンガロングで再現してみせる。

今回のショウで個人的なハイライトに思えたのは、ミーカとキーボード兼任のサックス・プレイヤーが2人だけで静謐に奏で始める“Stardust”、そして視界一杯のスウェイを誘いながら「スタジオコースト、目を閉じて。僕と一緒に歌ってくれるなら、出来うる限り大きな声で歌うんだ。いいかい?」と呼びかける“Underwater”といった、決して華々しくはない中盤の、新作曲による一幕であった。ステージ前半のミーカのパフォーマンス・コントロールとサーヴィス精神の布石が効いて、こういった曲調でもオーディエンスがしっかりとついてくる。美しい光景だった。そしてコミカルさと痛みが渾然一体となった“Stuck in the Middle”で再び、上昇線が描き出されてゆく。

ステージ・デザインとこれまた同じ緑色の巨大風船がフロアに投下される“Celebrate”以降の後半は、もはや逃れようのない多幸感がひたすら続く時間だった。どれだけ華やいでいても、ミーカのステージはやはり手作り感に満ちている。お馴染みの巨大風船の演出にしても、それ自体が高揚感を誘うのではない。むしろ、それぐらいのことをやらないと、聴覚の歓喜に視覚が追いつかないのである。ミーカは割と日本語を話すことができたはずだが、わざわざ通訳を招き入れて「酔ッテル時ダケ、アナタガ好キ!」と紹介するのはもちろん、“Love You When I'm Drunk”。最っ低で最高だ。文末のセット・リストを見て頂ければ分かる通り名曲連打の後半戦で、“Step With Me”も見事に歌声がフロアから上がっていた。

そういうわけで、辿り着いた“Love Today”、“We Are Golden”は、まさに凱歌のようにオーディエンスと分かち合われてしまった。可笑しかったのは、ミーカがヴォイス・パーカッションでリズム隊と激しいバトルを繰り広げて始まった“Love Today”のキメのフレーズを、ベース奏者が美声で延々と歌い続け、彼の背後でミーカが風船を割ったり、首を締めて邪魔をしても頑にやめない一幕。ノリとしてはどつき漫才である。オーディエンスが囃し立て、袖から「コノママ、マックスノ声ヲ、ズット聴イテテクダサイ」というミーカの声が響く。圧倒的な完成度でショウのドラマティックな高揚感/一体感を生み出しておきながら、まだまだイタズラ王子の一面も抜けないというか、ときどきプチ暴君と化す国王=ミーカなのであった。彼のかけがえのない王国が今後どんなふうに繁栄してゆくのか、ますます楽しみだ。(小池宏和)

01. Elle Me Dit
02. Relax, Take It Easy
03. Blue Eyes
04. Billy Brown
05. Rain
06. Big Girl (You Are Beautiful)
07. Origin of Love
08. Stardust
09. Underwater
10. Stuck in the Middle
11. Celebrate
12. Love You When I'm Drunk
13. Lola
14. Happy Ending
15. Step With Me
16. Grace Kelly
17. Love Today
18. We Are Golden
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