2011年にスタートし、今回で早5回目の開催を迎えた、インディー/オルタナティヴ・ミュージックの祭典『Hostess Club Weekender』(以下HCW)。第3回及び第4回はお台場のZepp DiverCityで行われたのだが、舞台は再び恵比寿ガーデンホールへ。フードコートと隣接したダイバーシティでの開催も良かったけれど、当初がそうだったからか、板張りのフロアで洋楽バンドをより身近に感じ、アットホームな雰囲気に包まれるガーデンホールは、HCWというフェスに良く似合っている気がする。リラックスしつつも、沸々と期待の熱気を含みながら開演を待ち侘びる。このムードが最高だ。
2日間開催、初日のトップを務めるのは、デンマーク出身のセーレン・ロッケ・ジュールによるソロ・プロジェクト=インディアンズだ。ステージ中央の卓上にシンセサイザーを中心としたシンプルな機材を並べ、波形を自在に操りながらメランコリックで夢見心地なサウンドスケープを描き出してみせる。想像していたよりもエレクトロニックな手応えの強い一人舞台となっていたが、4ADからリリースされたデビュー・アルバム『Somewhere Else』で触れることの出来た、透き通るように美しくヴィブラートを効かせたヴォーカルの艶やかさも際立っていた。“I'm Haunted”ではトラックにアコースティック・ギターのプレイを加えて緊張感を滲ませ、終盤の“La Femme”から“This Moment”にかけては強いビートも交えてエモーショナルに高揚してゆく。「HCWのトップ・バッターは凄い」のジンクスに違わぬ、静謐でありながらも鮮烈なインパクトを残したステージであった。
2番手は、こちらも名門4ADからデビュー・アルバム『No World』をリリースしたLAのユニット、Inc.(インク)である。泣きのブルース・ギターを奏でるアンドリューと、ファンキーな鍵盤をプレイするダニエルのエイジド兄弟による、2人きりのパフォーマンス。プリンスやディアンジェロを彷彿とさせる、内省的だがセクシーなソウル/ファンクのエネルギーがホール内に立ち込めてゆくようだ。ダブステップを意識したボトムのトラックは現代的だけれども、それ以上に2人による上モノの演奏が珠玉。これだけでも充分にパフォーマンスが成立するじゃないか、という技量を見せつけてくれていた。短い時間のステージだったが、“Desert Rose”から“5 Days”まで、アルバムに込めた主張と世界観を生々しく描き出してゆく。ダフト・パンク新作の高品位アーバン・ファンク/AORが心の琴線に触れたというリスナーにも、ぜひ知っておいて貰いたいユニットだ。
バンド側からの依頼によって、邦人シンガーのSalyuとスペシャル・セッションを実現してくれたのが、UKのジーズ・ニュー・ピューリタンズ。Salyuのアンニュイな歌声が面白いぐらいTNPにフィットし、ほぼ全編に渡ってコラボレーションが行われていた光景はレアだった。更に、TNPの我が道をゆく進化ぶりにいちいち驚かされる。フリューゲルホルンやフレンチホルンが持ち込まれた、重厚でシネマティックな楽曲はもはや「ロック・バンド」の枠組みを軽く逸脱してしまうものであり、とりわけ、日本盤が6/26にリリースされるサード・アルバム『Field of Reeds』に収録された“Fragment Two”の歌心や、“Organ Eternal”のブライトなシンセ・フレーズと急展開がもたらす情景喚起力には目を見張るものがあった。ラストはプリミティヴなバンド・グルーヴで迫る圧巻の“We Want War”。脇目も振らず、リスナーに挑むようにしながら現代型アート・ロックの可能性を突き詰めてゆく、そんなTNPの姿があった。
さて、幻想的なアート・フォームを披露するアクトが多いこの初日に、色とりどりのバルーンをステージに持ち込んで華やかなライヴを展開してくれたのが、ノルウェー発のチーム・ミーだ。昨年、カイトとの共演でリキッドルームを賑わせた来日公演は素晴らしいものだったし、前回2月のHCWでは、バンド来日とファンの姿を追ったドキュメンタリー・フィルムも上映されていた。スカンジナビア産トラッド/フォークの風をキラッキラの極彩色ポップへと昇華させる、華麗でキュートなハーモニー・ワークはもとより、前線でもフロア・タムが打ち鳴らされるという祭典グルーヴは健在。加えて、今回のステージでは持ち時間をたっぷりと使いきるような、エクスペリメンタルな展開も見せてくれた。トリプル・ギターのハードコアな轟音で迫る“Favorite Ghost”の刺激は、単独公演のとき以上だったのではないだろうか。そしてバルーンがフロアに投げ込まれる“Dear Sister”以降は、シンガロングを巻き起こしながらパーティ性を遺憾なく発揮。音楽もメンバーの人柄も極めて人懐っこい、その上でファンを新たな冒険に導くような、そんなステージであった。
初日のトリを担うのは、アイスランドの宝=ムームである。メンバーが担当パートをくるくるとスイッチするステージングにしても、生身の躍動感とエレクトロニック・サウンドを有機的に融合させるアンサンブルにしても、正直言ってその完成度はさすがに群を抜いていた。北欧ポップの現在形を見据えたブッキングの初日のアンカー、至福の1時間半である。“The Land Between Solar Systems”で始まる、キャリアを広く見渡したセットには、IDM文法の刺激的なトラックとフォーキーでパンチの効いた旋律が手を取り合う新曲“Toothwheels”なども絡められる。また、「これはフレンチ・キスの歌ね」と披露された“Blow Your Nose”、そして、身をよじらせては崩れ落ちる、前衛舞踏のようなダンスを織り交ぜた“The Ballad of the Broken Birdie Records”と、まさにキャリア=人生を謳歌する、そんなムームのパフォーマンスに惹き込まれるステージであった。“Green Grass of Tunnnel”から“Smell Memory”と初期曲で大喝采を浴びながら本編を終え、波の音で始まったアンコールの“The Island of Children's Children”は2本のギターの弦をクロスさせるような仕草で擦り合わせ、見事なフィニッシュである。
この初日の5組の共演から透かし見えたものは、新しいテクノロジーと、人間の生身の肉体/歴史の息遣いがどのように折り合いをつけてゆくのか、その手掛かりとなるものであった。これは、今後の世界のポップ・ミュージックすべてにとって、重要なテーマとなってゆくものでもあるだろう。HCW会場では、シガー・ロス新作の視聴サイトにアクセスすることもできるなど、企画も盛りだくさんだ。引き続き、2日目の模様をお楽しみに。(小池宏和)
Indians
01. New
02. Bird
03. Magic Kids
04. I'm Haunted
05. Reality Sulime
06. Lips Lips Lips
07. La Femme
08. This Moment
Inc.
01. Desert Rose
02. The Place
03. (Reprise)
04. Angel
05. Stumbleine
06. Black Wings
07. 5 Days
These New Puritans
01. Spiral
02. Fragment Two
03. Three Thousand
04. Attack Music
05. V (Island Song)
06. Organ Eternal
07. We Want War
Team Me
01. Patric Wolf & Daniel Johns
02. Come Down
03. Weathervanes and Chemicals
04. Favorite Ghost
05. Kennedy Street
06. F is for Faker
07. Daggers
08. Dear Sister
09. Up Against the Wall
10. Show Me
11. With My Hands Covering Both of My Eyes I Am Too Scared to Have A Look at You Now
múm
01. The Land Between Solar Systems
02. Slow Down
03. We Have a Map of the Piano
04. Toothwheels
05. Blow Your Nose
06. A Little Bit, Sometimes
07. Weeping Rock, Rock
08. The Ballad of the Broken Birdie Records
09. Now There's That Fear Again
10. Candlestick
11. Green Grass of Tunnnel
12. Smell Memory
EN. The Island of Children's Children