ORANGE RANGE @ SHIBUYA-AX

All pics by 平野タカシ
「『試聴会』ってよくあるんですけど、今日はライブで、アルバムを『視て』『聴いて』いただく場です!」とタキシード姿でスピーチして満場のAXのフロアを沸かせていたのは、ORANGE RANGEのメンバー……ではなく、所属レーベル=スピードスターレコーズの宣伝担当:菊地氏。『ORANGE RANGE SHOWCASE LIVE at SHIBUYA-AX 〜New Album 『spark』 視聴会〜』というタイトルの通り、7月24日にリリースされるORANGE RANGEのニュー・アルバム『spark』をいち早く、しかもいわゆる「音源試聴会」形式ではなく、メンバー自らライブの形で再現する意欲的な試み。当然、シングル曲など数曲を除いてはまだ誰も聴いたことのない曲がセットリストのほとんどを占めるわけだが、菊地氏の「メンバーも初めての試みですし、我々スタッフもそうですし、みなさんももちろんそうですけど、今日のライブはみんながチャレンジする場だと思っております!」という言葉に熱い拍手で応えていたこの日のオーディエンスは、至って自然に、かつ貪欲に「最新型ORANGE RANGE」を楽しみきっていた。そして、そんな開放感を生み出していたのは他でもない、新作『spark』のシンプルで開放的なモードだった。

「前回のアルバムが『NEO POP STANDARD』っていう、バンドでありながらバンドじゃない感がハンパないアルバムでしたけど。今回はスカッとしたイメージありますよね?」と中盤にHIROKIも話していたが、全曲打ち込みをフィーチャーしたエレクトロ色濃厚な前作『NEO POP STANDARD』からガラリと変わって、あっけらかんとしたバンド感の中から無上の高揚感が降り注いでくるような、まさにORANGE RANGEの原点と呼ぶべき快楽性が、1曲目“Show Time”のロックンロール感と、続く“マイペース”の弾むビートを一聴した瞬間に伝わってくる。「AX!楽しむ準備はできてるのか!」というRYOの言葉を待つまでもなく、“マイペース”ではでっかいクラップの輪が生まれ、フロアは早くも序盤からがんがん温度を上げていく。この日のライブは、2曲演奏したところでヴィジョンつきのスピーチカウンターが運び込まれ、メンバーが代わる代わる楽曲タイトルと内容を紹介する――という構成らしく、最初にMCに立ったのはHIROKI。観客の熱気を受けて「みんな知ってる風だったね。すごくやりやすい環境だなって」と言いつつも、「この2曲中、すでにミスが15回ありました!(笑)」と、バンド初の試みゆえの戸惑いも覗かせていた。ちなみに、“Show Time”はHIROKIいわく「サーカス団が街にやってきたみたいなテーマ。ちょっと下ネタもあり」、“マイペース”は「記念日を大事にする女の子と、記念日を忘れやすい男の子のギャップを歌った曲」。

昨年夏に配信リリースされている“サディスティックサマー”に高々を拳を突き上げシンガロングとウェーブで応えるオーディエンスの熱量は、スカ・ディスコなAメロからハード・エッジ&ポジティブなサビのロック空間へ飛び出すような“Special Summer Sale”でさらに高まっていく。「発売もしてない曲をライブでできる、しかもみんな知らない曲でも盛り上がってくれる。みなさんがいるから、こういうことができたんです。本当にありがとうございます!」とスピーチに立ったのはRYO。さらに「ここからは夏の時間は置いといて、バンド感を楽しんでほしいと思います!」という言葉とともに、“リフラフ”“トーキョーガールズコネクション”へ。NAOTOのラウドなギターとスロウ&ルーズなビート感が印象的な“リフラフ”、ファンキーで切れ味鋭いアンサンブルがミステリアスに響く“トーキョーガールズコネクション”。「今回のアルバムは全体的に音数が少ないというか、シンプルでラフな曲になってて。“リフラフ”も、リフがとてもラフだからということで(笑)」と直後のMCでYAMATOが説明していたが、自由闊達な空気感の中で、さまざまな音楽的テクスチャーが至って自然に、極彩色の輝きを放っていくレンジ・マジックが『spark』に息づいている――ということを、その音が何よりリアルに物語っている。

ライブが折り返し点に差し掛かっても「いやあ、ガクガクが止まらないんですけど(笑)」と緊張感をアピールしていたYAMATO。痺れるようなフィードバック・サウンドから流れ込んだミドル・テンポのヘヴィ・ミクスチャー・ロック“Suck it!”の後でRYOが「全員でしゃべります!」と宣言すると、ようやくリラックスした表情を見せる。HIROKIの「歌詞もシンプルなものが多くて、メッセージ性もそこまで強くないというか。でも、今やった曲“Suck it!”は、今の日本に物申す的なところでしょ?」の問いに、「ニュースとか観てたらね、どうなってるんだこれ!と。国会とかね。お金使って大したこと話してないし、寝てる人もいるし。あんたたちが話してることは、僕たちに伝わってないよって。県民……国民? そうそう国民に!(笑)」と天然ぶりを覗かせていた。8曲目は「轟音の鳴ってないシューゲイザー」とでも言いたくなる、USインディー/オルタナを彷彿とさせる楽曲“ふぁっきん♡ラブソング”。そして、4月に両A面シングルとして発表されている、後期ビートルズにも通じるメロディアスなポップ・ソング“もしも”を披露したところで「聴いてないにもかかわらず、こんなにいい顔して聴けるっていうことは……『今でしょ!』って(笑)」と挨拶して即座に「ベタでしょ!」とツッコまれたのはNAOTO。実は内容がつながっているというラブソング2曲“ふぁっきん♡ラブソング”“もしも”。「ピュアなものとそうでないもの、両極端なものが連続してある流れは、僕個人的には気に入った流れになっております」という言葉に拍手が広がる。

いよいよこの日のライブ=アルバム『spark』も終盤。気だるいサーフ・ロックに甘酸っぱい恋を重ね合わせた“ソフトテニス”から、もうひとつのシングル既発曲“オボロナアゲハ”のハイブリッドでダイナミックな音像へと雪崩れ込み、超リラックスした速射砲のような3人のラップがスーパーボールのように弾み回る。「ちょっと特徴的なライブなんですけど。MCが、2曲やっては入り、2曲やっては入り……全然汗がかけません!」と苦笑していたYOHだが、「いいアルバムができたと思います!」と『spark』への手応えをこの日のライブからも十分に感じたようだ。“オボロナアゲハ”、そして続くラストの“そばにいつでも”の作曲も手掛けているYOH。「聴いてもらって、それぞれ受け取り方、感じ方があると思うので。届いたらいいなと思います」という言葉とともに“そばにいつでも”へ。《行き先も わからないよ》という逡巡を静かに、真摯に《そばにいつでもミュージック》というフィナーレへと導くように、至上のメロディがひときわ清冽に響いて――終了。「ORANGE RANGEから『spark』お届けしました! ありがとうございました!」というRYOのコールに、惜しみない拍手と歓声が広がっていった。

アンコールの求めに応えて再びオン・ステージしたORANGE RANGE、「身体、動かしてないっしょ? メイク崩れてないもん!」というHIROKIの煽りから、“イケナイ太陽”でがっつりフロアを揺らす! そこから“祭男爵”“TWISTER”と初期曲を畳み掛け、ラストは“以心電信”で圧巻のクラップとシンガロングを巻き起こし、オーディエンスの情熱の最後の一滴まで完全燃焼させるようなエネルギーを生み出してみせる。やがて『spark』の楽曲もこの多幸感の一部になっていくに違いない――と思わせる、どこまでも爽快で力強いステージだった。アルバム『spark』発売は7月24日。高純度な音楽の楽しさでできているようなこのアルバムの音が日本中で鳴り響く日が、今から待ち遠しくて仕方がない。(高橋智樹)


[SET LIST]
01.Show Time
02.マイペース
03.サディスティックサマー [spark mix]
04.Special Summer Sale
05.リフラフ
06.トーキョーガールズコネクション
07.Suck it!
08.ふぁっきん♡ラブソング
09.もしも
10.ソフトテニス
11.オボロナアゲハ
12.そばにいつでも
Encore
13.イケナイ太陽
14.祭男爵
15.TWISTER
16.以心電信