ザ・キラーズ @ 新木場STUDIO COAST

All pics by Torey Mundkowsky
ザ・キラーズの、実に6年ぶりの来日公演である。ようやく実現した待望の日本公演である。なにしろ6年ぶりと言ってもただ漠然と6年間の空白が開いていたわけではない。彼らは2009年のフジ・ロック、2010年の単独と来日を立て続けにキャンセルし、どちらも不可抗力な理由があってのキャンセルだったにせよ、「日本に来られないバンド」というイメージがついてしまっていた。しかも今回も来日も御存じの通り直前での日程変更が生じるなど、日本に来られない、もっとぶっちゃけて言えば「日本と相性が悪いバンド」キラーズのジンクスはいまだ健在かと肝を冷やしたファンも多かったのではないか。

しかし、彼らはついに日本のステージに立った。そしてこれまで幾度か生じてきた彼らと日本のファンの間の誤解やすれ違い、それをついに払拭する素晴らしいコンサートを見せてくれた。これは大袈裟でも何でもなく、昨夜のSTUDIO COAST公演はキラーズと私たち日本のファンの双方にとってターニング・ポイントとなる記念すべき一夜となった。

この6年の間にキラーズは変わった。トレンディな人気バンドから、当代きっての現役スタジアム・ロック・バンドへと成長を遂げ、英ウェンブリー・スタジアムを即完する大サクセスを手にした彼らと、今回の日本公演では明らかなギャップがある。6年の空白に加えて状況的なギャップ、果たして彼らと私たちの間に横たわるこの溝は解消されるのか。

その答えは1曲目の“Mr. Brightside”のイントロが鳴った瞬間に明らかになった。何が驚いたって、“Mr. Brightside”が客電が完全に付いたままの明るさの会場で鳴り響いたということだ。最初は照明スタッフのミスかと思ったのだが、それは明らかに演出だった。まるで覚悟と自信を見せつけるように、キラーズは冒頭でバンドのすべてを眩い光の下に曝け出してきた。そしてそんな彼らの覚悟と自信を全力で受け止めるかのような怒号と大歓声でオーディエンスが答えた時、瞬く間に溝が埋まっていくのを感じた。今思い返してもちょっと鳥肌が立つような光景だった。

そして異様な昂揚状態のまま“Mr. Brightside”が終わったところで客電は暗転し、フロアに漂うスモーク(と早くも発生した湯気)をかき分けるようにエモーショナルな“Spaceman”が始まる。のっけから所狭しとステージを歩き回り、身をよじり、拳を突き上げ、客席に手を差しのばしてコール&レスポンスを乞うブランドン。2007年の前回来日時にはもう少し気取って芝居がかったステージングをするパフォーマンスだったと思うのだが、今のブランドンはスーパー・エネルギッシュでカリスマティックなフロントマンだ。これほどの運動量と過剰にエモーショナルな歌とジェスチャーなくしては、彼らが通常ホームとしているスタジアムやアリーナでは通用しないということだと思うし、今回のステージが感動的だったのは、キラーズがそんな通常のステージを一切ダウンスケールせずにSTUDIO COASTに、日本に持ち込んでくれたということだ。そしてその本来スタジアム・スケールに立つべきキラーズを、文字通りスタジアム・スケールの歓声と熱狂でつつんだオーディエンスも、本当にとんでもなかったのだ。

「イチ、ニ、イチ、ニ、サン、シ!」と日本語の掛け声で始まった“The Way It Was”のインターミッションでブランドンは足元のメモを見ながら日本語で話し始めた。「ミンナ、ゲンキ? シン・シティカラ、キマシタ。ミンナノタメニ、プレイシマス!」。基本オープニングからここまでオーディエンスは隙あらば合唱しまくりなわけだが、“The Way It Was”では完璧なコール&レスポンスが決まる。

続く“Smile Like You Mean It”は稲妻型の電飾が施されたシンセの前にブランドンが陣取って始まるこれぞキラーズ印のニューウェイヴなエレクトロ・ポップ・チューン。そのままシンセを弾き続けるブランドンが“Human”のサビを少し弾き歌ったところで“Bling”、そしてジョイ・ディヴィジョンのカヴァー“Shadowplay”がシームレスで畳みかけられる。“Shadowplay”は文字通り暗転したステージの中で彼らのシルエットだけがうごめく「シャドープレイ」な演出が施され、ここまでで際だってハードな印象を与える。

そんな“Shadowplay”から一転して“Human”は4つ打ちのダンサブルなアレンジが加えられ、フロアには後ろの後ろまでホッピングの波が広がっていく。そんな光景を目の当たりにしてブランドンは「僕らは中国、台湾、タイとか、アジア中を回って来たけど……信じられない、東京が一番だよ!」と、ちょっと興奮気味にまくしたてる。いや、本当に驚いたのだと思う。私たちがキラーズと日本のギャップを心配していたように、キラーズだって恐らくギャップを感じていたはずだと想像する。正直、日本にここまで多くのロイヤルなファンがいて、自分たちを6年間も待っていたとは思っていなかっただろう。そんな双方の感慨をさらに加速させるように始まった“Somebody Told Me”は中盤のクライマックスとなった。

ブランドンがベースを手にして始まった“For Reasons Unknown”以降の数曲は明確にロックンロール・モードに舵切ったセクションで、キラーズを世界最大のバンドのひとつへと押し上げた原動力、彼らの基礎体力をまざまざと見せつけられる。これも2007年のステージの記憶と比べると隔世の感で、スプリングスティーンやU2の意志を受け継がんとするキラーズの姿勢を明確に鳴らしていく。“From Here On Out”は各メンバーのソロを挟む構成で、ロニーのドラム・ソロでは客席からコールまで巻き起こる。最新作『バトル・ボーン』の中でも“From Here On Out”はスカやカントリーの要素も取り込んだ多様性が肝のナンバーだが、その多様性にばっちり対応して絶妙のタイミングでコーラスを入れ、シンガロングする、そんなオーディエンスにブランドンは「いやだからほんとにさ、僕ら中国、台湾、タイとか、アジア中を回って来たけど(笑)、それどころかアメリカでもこの曲はやってるんだけど、この曲のコーラスをこんなに完璧にやってくれたのは東京の君らだけだよ!」と再びこれまで回ってきた国の名前を列挙した。

この辺りから、オーディエンスも、そしてステージの彼らも、どうやらこの日のステージが特別なものになる予感が確信へと変わり始めたと言える。極めつけだったのが“Read My Mind”で、フロアの上手前方にガチャピンの着ぐるみを着たファンを見つけたブランドンがそのガチャピンくんをステージに招き上げ、ガチャピンくんが踊り、コーラスを入れる(しかもコーラスが上手い!)という最高の光景に、ブランドンもデイヴもロニーも笑顔を隠しきれない。むろんオーディエンスも大声援だ。御存じのように“Read My Mind”のミュージック・ビデオは東京の新宿界隈で撮影され、そのビデオにはガチャピンが出演していたわけで、このファン発信のガチャピン・オン・ステージのサプライズはまさに「ONLY IN JAPAN」、日本だからこそ意味を持ったファンタジックな瞬間だったのだ。

“Runaways”ではほぼ拳を突き上げっぱなしのブランドン、さすがに足元がふらつきそうな場面もあったものの、ランナーズ・ハイのような様相でショウは進んでいき、これぞキラーズのスタジアム・ロック・アンセムと呼ぶべき“All These Things That I've Done”で本編は完璧なエンディングを迎えた。そしてあそこまで声と手拍子の揃ったアンコールもないんじゃないかというオーディエンスの熱に押されるように再び彼らは登場し、アンコール・ラストの“When You Were Young”で今度こそバンドもオーディエンスも完全燃焼し、この日のステージは幕を下ろした。

6年間の空白を埋め、すれ違っていた彼らと私たちがついに「出会えた」、そんな胸の奥から熱いものがこみあげてくるような喜びと感動のキラーズ来日公演だった。(粉川しの)

1. Mr. Brightside
2. Spaceman
3. The Way It Was
4. Smile Like You Mean It
5. Bling (Confession of a King)
6. Shadowplay
7. Human
8. Somebody Told Me
9. For Reasons Unknown
10. From Here On Out
11. A Dustland Fairytale
12. Read My Mind
13. Runaways
14. All These Things That I've Done
(encore)
15. Jenny Was a Friend of Mine
16. When You Were Young