しかし、彼らはついに日本のステージに立った。そしてこれまで幾度か生じてきた彼らと日本のファンの間の誤解やすれ違い、それをついに払拭する素晴らしいコンサートを見せてくれた。これは大袈裟でも何でもなく、昨夜のSTUDIO COAST公演はキラーズと私たち日本のファンの双方にとってターニング・ポイントとなる記念すべき一夜となった。
この6年の間にキラーズは変わった。トレンディな人気バンドから、当代きっての現役スタジアム・ロック・バンドへと成長を遂げ、英ウェンブリー・スタジアムを即完する大サクセスを手にした彼らと、今回の日本公演では明らかなギャップがある。6年の空白に加えて状況的なギャップ、果たして彼らと私たちの間に横たわるこの溝は解消されるのか。
そして異様な昂揚状態のまま“Mr. Brightside”が終わったところで客電は暗転し、フロアに漂うスモーク(と早くも発生した湯気)をかき分けるようにエモーショナルな“Spaceman”が始まる。のっけから所狭しとステージを歩き回り、身をよじり、拳を突き上げ、客席に手を差しのばしてコール&レスポンスを乞うブランドン。2007年の前回来日時にはもう少し気取って芝居がかったステージングをするパフォーマンスだったと思うのだが、今のブランドンはスーパー・エネルギッシュでカリスマティックなフロントマンだ。これほどの運動量と過剰にエモーショナルな歌とジェスチャーなくしては、彼らが通常ホームとしているスタジアムやアリーナでは通用しないということだと思うし、今回のステージが感動的だったのは、キラーズがそんな通常のステージを一切ダウンスケールせずにSTUDIO COASTに、日本に持ち込んでくれたということだ。そしてその本来スタジアム・スケールに立つべきキラーズを、文字通りスタジアム・スケールの歓声と熱狂でつつんだオーディエンスも、本当にとんでもなかったのだ。
「イチ、ニ、イチ、ニ、サン、シ!」と日本語の掛け声で始まった“The Way It Was”のインターミッションでブランドンは足元のメモを見ながら日本語で話し始めた。「ミンナ、ゲンキ? シン・シティカラ、キマシタ。ミンナノタメニ、プレイシマス!」。基本オープニングからここまでオーディエンスは隙あらば合唱しまくりなわけだが、“The Way It Was”では完璧なコール&レスポンスが決まる。
そんな“Shadowplay”から一転して“Human”は4つ打ちのダンサブルなアレンジが加えられ、フロアには後ろの後ろまでホッピングの波が広がっていく。そんな光景を目の当たりにしてブランドンは「僕らは中国、台湾、タイとか、アジア中を回って来たけど……信じられない、東京が一番だよ!」と、ちょっと興奮気味にまくしたてる。いや、本当に驚いたのだと思う。私たちがキラーズと日本のギャップを心配していたように、キラーズだって恐らくギャップを感じていたはずだと想像する。正直、日本にここまで多くのロイヤルなファンがいて、自分たちを6年間も待っていたとは思っていなかっただろう。そんな双方の感慨をさらに加速させるように始まった“Somebody Told Me”は中盤のクライマックスとなった。
この辺りから、オーディエンスも、そしてステージの彼らも、どうやらこの日のステージが特別なものになる予感が確信へと変わり始めたと言える。極めつけだったのが“Read My Mind”で、フロアの上手前方にガチャピンの着ぐるみを着たファンを見つけたブランドンがそのガチャピンくんをステージに招き上げ、ガチャピンくんが踊り、コーラスを入れる(しかもコーラスが上手い!)という最高の光景に、ブランドンもデイヴもロニーも笑顔を隠しきれない。むろんオーディエンスも大声援だ。御存じのように“Read My Mind”のミュージック・ビデオは東京の新宿界隈で撮影され、そのビデオにはガチャピンが出演していたわけで、このファン発信のガチャピン・オン・ステージのサプライズはまさに「ONLY IN JAPAN」、日本だからこそ意味を持ったファンタジックな瞬間だったのだ。
6年間の空白を埋め、すれ違っていた彼らと私たちがついに「出会えた」、そんな胸の奥から熱いものがこみあげてくるような喜びと感動のキラーズ来日公演だった。(粉川しの)
1. Mr. Brightside
2. Spaceman
3. The Way It Was
4. Smile Like You Mean It
5. Bling (Confession of a King)
6. Shadowplay
7. Human
8. Somebody Told Me
9. For Reasons Unknown
10. From Here On Out
11. A Dustland Fairytale
12. Read My Mind
13. Runaways
14. All These Things That I've Done
(encore)
15. Jenny Was a Friend of Mine
16. When You Were Young