確信をもって未来に進め

ザ・キラーズ『インプローディング・ザ・ミラージュ』
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ALBUM
ザ・キラーズ インプローディング・ザ・ミラージュ

ザ・キラーズにとって初の全米・全英チャート1位となった前作『ワンダフル・ワンダフル』から、約3年ぶりの6作目。プロデュースにはアラバマ・シェイクスザ・ウォー・オン・ドラッグスジュリアン・カサブランカスを手がけたカナダ人ショーン・エヴェレットと、フォクシジェンのジョナサン・ラド(ザ・レモン・ツイッグスなど)を迎えた。両者ともザ・キラーズと作業するのは初めてだ。そして制作、レコーディングも、彼らの拠点であるラスベガスを離れてから行われた初めてのアルバムでもある。また、フリートウッド・マックのリンジー・バッキンガムやk.d.ラング、ワイズ・ブラッド、ザ・ウォー・オン・ドラッグスのアダム・グランデュシエル、ブレイク・ミルズ、ルシウスといった多くのゲストが参加しているのも、彼らとしては初めてのことだ。

つまり本作は彼らにとってさまざまな新しい試みを行ったアルバムということになる。前作が過去最高のセールスをあげても、それに安住し、前例を踏襲することはしなかった。成功しても冒険的かつ挑戦的な姿勢を忘れない。それはサウンド面での新奇さを求めるというより、常に自分たちを触発しモチベーションを喚起する刺激を求めているということだ。そうした向上心が彼らを常に前進させている。

前作はブランドン・フラワーズが妻のPTSDなどプライベートな問題について言及してゆくような陰鬱な内容で、曲によってはデペッシュ・モードに通じるようなダークなエレクトロが聴けたりもした。だが本作はそこから一転して力強くポジティブなエネルギーが漲っている。逆境から立ち直り、暗闇をくぐり抜けて明るい希望を見いだした彼らの高揚する感情が、曲にも演奏にも表れている。彼ら流の70年代〜80年代のメインストリームのクラシック・ロックのフォーマットを下敷きにした、メリハリが効いて華やかなロックはいっそうイキイキと躍動していて、曲によっては『ボーン・イン・ザ・U.S.A.』のころのブルース・スプリングスティーンのように聞こえるものもある。最初はその臆面もない明るさと元気さ、前作とのギャップに面食らった。こういう、一昔前の言い方をすれば「産業ロック」的なサウンドは、オルタナティブ全盛の時代だったら個人的に陰影がなさすぎると敬遠していたろう。だが、この音は今だからこそ力強く響くのではないだろうか。

コロナ禍で誰もが先行きの見えない不安と孤立の中にいる現在、こういう確信に満ちた音こそが必要とされるのかもしれない。 (小野島大)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』10月号に掲載中です。
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ザ・キラーズ インプローディング・ザ・ミラージュ - 『rockin'on』2020年10月号『rockin'on』2020年10月号
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