徹頭徹尾放たれる、ある種の「ゾーン」に入っているとしか考えられないような全能感。今日の、ガリレオの2014年初ライヴは、これまで通り次の彼らが楽しみになる可能性の眩しさを失わないまま、今日で全てが終わってしまっても構わないとまで思わせるような圧倒的な絶頂を創出するに至ったという意味で、恐らく彼らにとって極めて大きな一歩として刻まれていく、そんな特別さに満ちたライヴだった。
老若男女が集った渋公の会場が暗転すると、ステージを覆う薄幕に、殻が少しずつ破れていくと共にその中からバンド名が現れるという映像が映される。その内側からバンドが“18”を奏で出すと、すぐに幕が落とされる。それを追う、割れるような歓声。いきなりトップギアの演奏と合わさり、強い覚醒感が漲るオープニングだ。そこに続くのは“パイロットガール”~“Jonathan”と最新作『ALARMS』からのポップ・チューンたち。一打一打、一音一音を力強く撃ち抜くような尾崎和樹(Dr)と佐孝仁司(Ba)のリズムに乗って、尾崎雄貴(Vo/Gt)の言葉が、音源でのストーリーテラーとしての表情とはまた違った重量で、大砲のような迫力を伴い突き刺さってくる。また、音源からの飛距離、という意味では、次の『PORTAL』からの2曲にはそれ以上の衝撃があった。かわいらしささえ感じるエレポップ・ナンバーだったはずの“老人と海”は巨人が足踏みするかのようなスネアが聴き手に静止していることを許さないダンス・ロックへ変貌させ、詩情に富んだ軽やかなパワーポップ“花の狼”は直線的なグルーヴが快楽のツボを的確に打つハイなロックンロールへと変貌していたのだ。そんなプレイを終えた後に、次の曲のイントロを途中で止め「ごめん、超ごめん、そうだ、僕ここで話そうと思ってたんです。クールに決めたかったなぁ…」と独りごちる尾崎雄貴のとぼけた態度が逆にバンドの天衣無縫感を引き立てる。
前半の流れに最初の区切りを付けたのが、“サークルゲーム”。詞単体でも「名作」と冠されるに相応しい次元で丁寧に紡がれた物語と、それに完璧に寄り添うソングライティング。時の流れを歌いながら、その間の聴き手の時間を止めてしまうような歌。やはりあまりに格別で特別な曲だ。そして、次の“明日へ”でバンドはここまでよりさらにもう一段階ギアを上げる。思わず、『ALARMS』の構造を新しい形でなぞるような繋がれ方に震えが走った。
彼らの3枚目にして紛うことなき最高傑作『ALARMS』においてまず何より心酔させられたのが、その曲順の見事さだ。1曲目“ALARMS”の響きを始まりとして、2曲目“ロンリーボーイ”~7曲目“サークルゲーム”までのA面部分でガリレオはそれまでの彼らが腐心してきた、物語=多大な労力を払い伝わる形にしてまで伝えたい言葉達を表現の中心に据えたポップ・ソングの追究を続けている。一方、最もその核心に迫る“サークルゲーム”を経て、B面部分となる8曲目“フラニーの沼で”以降の曲達においては、まるで別のバンドかと思うほどに、迸るエモーションに身を委ねた衝動的なロックが立て続くのである。それは、伝えたいことを伝えることを目的としていた「これまで」と、兎にも角にも溢れる何かを伝えようと叫ぶこと自体に意味を見出した「これから」とをどちらも否定せずに繋ぐ感動的な流れだった。そして、今日“サークルゲーム”に続いた“明日へ”もそれと同様のインパクトを持っていたのだ。全ての音の大きさが、速さが、尋常ではない声と演奏。いや、もちろん適正な音量とBPMなのだが、音に込められた熱意と自信が、この音を出さずにいられないという欲望が、そんな錯覚を起こさせたのである。
ライヴのハイライトは、と考えると、密室感が魅力でもあったチルウェイヴ調の曲が、歌とコーラスの過剰なコントラストでビッグバンを起こすスタジアム・ロックと化していた“潮の扉“や、じわじわと熱を高めていくバンドのグルーヴに会場中のハンドクラップが呼応し何とも美しい光景を生んだ”愛を“も捨てがたいが、1曲となると”夏空“が頭1つ抜けていたように思う。彼らのメジャー・デビュー・シングルであり、蒼い疾走感がそのまま音となったような曲だったはずが、まるで40年前から歌い込まれてきたザラついたロック・アンセムのような貫禄を宿していたのだ。彼らの止まぬ進化を最も象徴する演奏だった。海外のトレンドをリアルタイムで取り入れながら貪欲に音楽的成長を果たし、鍛え上げた筋力をもってついに国内外問わず最先端のロックをオリジナルの形で鳴らしてきた彼らが、誰もに胸を張って「ここまできたのだ」と言い切れる高みに達していた。ロック・バンドを追っていて、ロックを聴いていて、こういう瞬間に立ち会えるほど幸福なことはない。
恍惚のギター・ノイズで空間を塗り潰した“星を落とす”で締めた本編ですでに大満腹だったのだが、アンコールにもサプライズが用意されていた。最初に演奏されたのは昨年アルバム・デビューし世界の注目をかっさらったマンチェスターのバンドThe 1975の “Chocolate”! 原曲通り打ち込みを用いつつ日本語詞で解釈を加える堂に入ったカヴァーだ。次は2月12日に配信限定シングルとしてリリースされるという“Hellogoodbye”!これがバンドにとってもファンにとっても重要な1曲である“ハローグッバイ”を、『ALARMS』のプロデュースなど親交の深いクリス・チュウ率いるPOP-ETC(の改名する前のThe Morning Benders時代)の名盤『Big Echo』をどこか彷彿とするようなバロック・ポップにリアレンジした絶品の出来。そして、この2曲に続いてトドメに畳み込まれたのは、1週間ほど前に出来たばかりというほやほやの初出し新曲“SPORTS”! 今日演奏されたどの曲よりもシンプルなギター・ロックでありながら、リズムもメロディも、今にもはち切れそうな瑞々しいエネルギーに満ちている。「今バンドとして凄く良い状態でいて、その証拠を残すために新曲を持ってきました」という尾崎雄貴の言葉通り、まさに今のバンドの無敵の在り様を映したようなアンセムになっていた。最後には“Birthday”で有終の美を飾ったガリレオ。彼らにこの2014年を、止まってほしくない、と思うまでもなく、身の内から吹き出すエネルギーとそれを浴びた周囲が止まることを許さないだろうとつくづく確信させられたライヴだった。(長瀬昇)
[セットリスト]
18
パイロットガール
Jonathan
老人と海
花の狼
サークルゲーム
明日へ
くそったれども
フラニーの沼で
ALARMS~ロンリーボーイ
潮の扉
愛を
夏空
青い栞
星を落とす
(アンコール)
Chocolate(The1975 Cover)
Hellogoodbye
SPORTS(新曲)
Birthday