【コラム】YUKI、これが新たな遊び方――シシヤマザキと作り上げた新曲MVの世界


それは例えば椅子職人だったり、漫画だったり、芸術家だったり。YUKIのインタヴューをしていて面白いのは、その時々で興味がある人物や作品の話をしてくれること。いつだってそのアンテナの感度に驚かされるし、そしてその好奇心はYUKI自身の常にフレッシュな音楽制作やアートワークに繋がっていく。

YUKIの新曲“好きってなんだろう・・・涙”のMVが期間限定で公開された。今作のCDジャケットとMVを手がけたのは、新進気鋭のクリエイター、シシヤマザキ。PRADAやルミネの広告を手がけたことでも話題の女性アーティストだ。

今作“好きってなんだろう・・・涙”のMVでは水彩画風のイラストで描かれたYUKIが真っ赤なレオタード姿で艶めかしく歌い踊る様がアニメーション仕立てになっていて、そのタッチが何ともユニーク。ゆったりとしたリズムに乗って、クルクルと切り替わるアングル、その一瞬一瞬が見逃せない。YUKIが目を閉じると、たくさんの女性が涙となって瞼からこぼれ落ちていく様子など、何とも不思議な世界観。しかし、ある意味めちゃくちゃリアルなのだ。YUKIが歌うときの細やかな表情、足を開くときの膝の絶妙な角度とか、長年YUKIのステージを見ている人ならきっと、このアニメーションで表現されているものがいかにYUKIの動きそのものであるかがわかるだろう。

それもそのはず、シシヤマザキはロトスコープと呼ばれる、被写体の動きをカメラで撮影し、それをトレースしてアニメーションにする手法を得意としており、水彩画タッチでありながらも生身のYUKIが踊っているような柔らかな色気はそうした製作過程から生み出されるものなのだろう。

赤いレオタード姿のYUKIは音に身を委ねたり、時には武術のような動きも軽やかに見せながら、実に自由な佇まいで踊っている。そして途中から黒髪ボブの女性がトップレスで更に自由な動きで乱入……っていうかコレ誰!?と思った人も多いはず。
そう、赤い乳首と黒いホクロでインパクトを残しながら画面に登場してYUKIの周りを転がったり踊ったりしている女性こそがシシヤマザキ。もともと彼女の作品は自身が踊る様をトレースしてアニメーションにしていることも多く、今回も大胆にYUKIとアニメーション内で共演している。トップレスで乱入コラボ、なんて言うと聞こえがわるいのだけれど(笑)、もう全てを曝け出すようなシシヤマザキの動きはちっともカッコつけたりしていないし、周りの目線なんて気にしていないような開放的なムードが見ていて羨ましくなってしまうほど。その横で伸びやかに歌うYUKIの姿もあいまって、本能や生命力が漲るような力強いMVになっている。

大人の女性ならではの哀しみや恥じらいがありながらも、それでも優しくたくましく面白おかしく、生きたいように生きることを恐れない――ちょっと笑えて素敵なこのMVにはそんな大人の女性へのメッセージが込められているように思う。そしてそれは“好きってなんだろう・・・涙”の楽曲世界そのものに通じていく。

ちなみに今作、2,000枚のみの発売となる完全生産限定盤では、このMVの原画がシリアルナンバー入りで封入されるという。購入された方は、一体どの一瞬が切り取られたイラストが入っているのかもドキドキだろう。いざ手元に届いてみれば乳首のドアップ……なんてこともあるのだろうか!? 気になる!(笑)。

(上野三樹)

“好きってなんだろう・・・涙”ミュージックビデオはこちら(期間限定公開)