RO69のライヴレポート(http://ro69.jp/news/detail/129300)にも書いた通り、実に20年ぶりとなる今回の横浜アリーナ2DAYS公演「Yesterday, Today, Maybe Tomorrow」を大成功させたREBECCA。NOKKO(Vo)/土橋安騎夫(Key)/高橋教之(B)/小田原豊(Dr)と、解散前からのレギュラーサポートメンバー=是永巧一(G)/中島オバヲ(Perc)が同じステージに立つ姿は、8月2日のROCK IN JAPAN FESTIVAL 2015出演時にも観ていたし、完全復活を越えたポテンシャルを「今」のREBECCAが備えていることは十二分にわかってはいた。が、この日の6人がそんな期待値すら1曲目の“Raspberry Dream”であっさり凌駕していく光景には、感激と同時に凄味すら覚えずにはいられなかった。
特にNOKKO。“Hot Spice”や“プライベイト・ヒロイン”で弾けたパンチ効きまくりの歌声や、アンコール最後の“Maybe Tomorrow”をまさかのキー1音上げで鮮やかに歌い上げた圧巻のヴォーカリゼーションには、思わず胸が震えた。懸命にメロディ最高音を「絞り出す」のではなく、ともすればメロディの統制すら越えて飛んでいきそうな衝動を自身の技術でもって必死に歌のキーに「抑えている」ような――80年代以降日本中を魅了してきた、あの唯一無二のハイトーンヴォイス。彼女の歌がフラットする(正しい音程より低くなる)瞬間は、この日のライヴではほぼ皆無だったし、むしろ感情が高ぶるにつれて痛快にシャープする(高くなる)場面が多々見受けられた。そして、改めて痛感させられた。その「情熱のままに弾け回る歌」が、少女と大人の狭間で揺れ動くレベッカの世界観を何よりリアルに体現していることを。
《制服の胸がきつくて爆発しそうなあの頃》(“CHEAP HIPPIES”)、《もう冷たい雨が降るわ/早く服を着なくちゃ》(“Little Darling”)……大人に向かって背伸びする少女の躍動感とフラストレーション。常に暴発寸前の情熱を抱えて日常を生きる危うさと輝き。そんな青春性に満ちた物語を、時にシネマティックに、時にダンサブルに、REBECCAは数々の名曲に焼き込んできたが、その楽曲群にフィクションの域を越えたスリルと生命力を吹き込んできたのは、NOKKOの歌の「いつでも抑圧に抗い得る爆発力」そのものだ。2000年の再結成に先駆けてトリビュート盤『tribute to REBECCA DREAM DISCOVERY』(1999年)がリリースされたほか、REBECCAの曲はこれまで多くのシンガーにカヴァーされてきたが、NOKKO以外の誰が歌ってもREBECCAにならないのは、単に「別の人が歌っているから」だけではない。その「抑え難く脈打つ青春性と衝動」を、REBECCAの物語に重ね合わせて表現し得る人は、NOKKO以外にいなかったからだ。
そして、そのことは誰よりもNOKKO自身がよくわかっていたのだろう。「去年の暮れに、私のライヴにゲストとして小田原さんと土橋さんが来て。そのリハーサルの時に、なんかこう……ずいぶんいい感じだったんですよね。ステージを一緒にやって、もっと一体感が出てきて。『よし、やろうかな』って」という軽やかな言葉で、NOKKOはREBECCA再始動のきっかけを語っていたが、この日彼女が聴かせた歌の爆発力は「よし、やろうかな」では到底説明不能な、完璧に「仕上がった」コンディションのものだ。「REBECCAのNOKKO」が、間違いなく今、僕らの前にいる――“Raspberry Dream”をNOKKOが歌い始めた瞬間、会場から沸き上がった驚きと感激の声が、その実感をはっきりと物語っていた。
90年代以降のギターロックに慣れた耳には、REBECCAのバンドサウンドは極めて「隙間」が多いと感じられるはずだ。ニューウェーヴ/ダンスポップを基調としたグルーヴィーなビート感、最低限の音数で構成されたアンサンブルは、NOKKOの歌がそのポテンシャルを最大限に発揮できるように最適化された舞台でもある。2015年の今、それぞれにキャリアを重ねた辣腕バンドメンバーと、ロック/ポップ史上屈指のヴォーカリストが、確かな信頼関係をもって再び同じ道を歩み始めた。最高だ。本稿執筆時点(8月14日)では、11月29日にさいたまスーパーアリーナで開催される「Yesterday, Today, Maybe Tomorrow」追加公演以降のスケジュールは発表されていないが、まだまだライヴで聴きたい曲はいっぱいあるし、REBECCAの「その先」の景色を、この時代にもっともっと繰り広げてほしい。切に願う。(高橋智樹)