28年を経て「完成」――布袋寅泰『GUITARHYTHM』再現GIGを観た
2016.04.12 08:00
2016年4月7日、布袋寅泰のアニバーサリープロジェクトのひとつ「GUITARHYTHM伝説'88~ ソロデビュー再現GIGS」が代々木第一体育館で行なわれた。RO69では、この模様をライヴ写真とレポートでお届けする。
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アーティスト活動35周年を迎えた布袋寅泰、そのアニバーサリープロジェクトのひとつとして行われた「GUITARHYTHM伝説'88~ ソロデビュー再現GIGS」。1988年のライヴと同じ場所、代々木第一体育館と大阪城ホールで、当時のGIGを、そして『GUITARHYTHM』を再現しようという試みだ。その東京公演に足を運んだ。今夜のライヴが当時のセットリストをそのままトレースするのか、はたまたアルバムの曲順通りに進行するのか、「再現」という言葉の意図を誰もが推し量りながらこの日を迎えたことだろう。もちろん、布袋自身が当時を振り返るだけの「再現」など行わないことはわかっている。果たして、この夜鳴らされた音はまさしく『GUITARHYTHM』でありながら、1988年から28年間という年月を経た今だからこそ表現し得る、重厚かつ繊細なサウンドスケープとして「再び現れた」ものだった。そういう意味での「再現」であったかと、1曲目を耳にした時点で思い知る。
序盤に“C’MON EVERYBODY”から“GLORIOUS DAYS”へと切れ目なくつないでいくところなど、進行上で「アルバムの再現」を思わせる箇所は随所にありながら、すべての演奏、すべてのパートが2016年の音としてアップデートされていた。プログラミングのオーケストラルヒットやシンセ音を用いた音の厚みには80年代的ギミックを感じながらも、それがまったく古くもダサくもなっていないのだ。当時の音を愛しながら、(テクノロジーの進化も含め)2016年の音として再構築し、理想の形へと近づけていく作業、私たちは、その壮大なプロジェクトをリアルに体感したのだと言える。少し長くなるけれど、ライヴで布袋が語った言葉を、思い出せる範囲で引用してみる。「今回、忠実にあの時のライヴをそのまま再現しようかとも考え、悩みました。でも、なぜ僕が『GUITARHYTHM』というコンセプトでソロワークをスタートさせたかというと、それはBOØWYというフォーマットに別れを告げて、まったく違うところから新しい布袋寅泰の道を作っていこうという思いからでした。だから、『再現』という言葉には縛られずに、あの時の自分をコピーするのではなく、再現というよりも、『GUITARHYTHM』の完全化、『GUITARHYTHM』のコンプリート版を、今日は思う存分楽しんでください」。この言葉がすべてを言い表していた。
ステージを彩る演出も、1988年当時のGIGを踏襲したライティングと最新のレーザーライトとの融合、そして時にメッセージ性の強い映像が映し出されるスクリーン演出などが組み合わさって、今回の「再現」の意図を見事に表現していく。“STRANGE VOICE”では、スクリーンの上のバルコニーから、赤いドレスを身にまとった女性(小川里美)が現れ、オペラヴォイスで楽曲をより美しく妖しく彩る。『GUITARHYTHM』という作品の先鋭性が浮かび上がる楽曲であり、その「完全化」を視覚的にも表現してみせた。終盤、官能的で獰猛な布袋のギターフレーズにサポートの黒田晃年(G)がギターで応えるスリリングな応酬が続き〝GUITARHYTHM″が始まると、そのサウンドの緻密さと野性味にひたすら圧倒されてしまう。まさに布袋寅泰のスタートラインを象徴するこの曲、その2016年版の演奏は、無造作なようでいて綿密に組み合わさったモザイクのようなサウンドピース、一分の隙もない演奏、ジャンルも国も限定できないオリジナルで強靭なグルーヴと、どこをどう切り取っても、パーフェクトな「完全化」だった。
「いま思えば、当時26歳の布袋君は、随分思い切った作品を作ったもんだなと。28年前、あれから随分世の中も変わったし、僕自身もいろんな経験をしました。今年は35周年ということで、ライブハウスツアーをして、その前には念願の、ワールドワイド流通のアルバムをリリースすることができました。でも、夢の扉が開いたからと言って、すぐそこにゴールがあるわけではなく、夢の扉の向こうには果てしない海が広がっていて。でも、こうやって35周年という大きな節目に、また新しくスタートを切れたことを嬉しく思います」という布袋の言葉に続き、披露されたのは最新曲“8BEATのシルエット”。《駆け抜けた季節は 2度と戻らない/思い出に浸るのはまだ 早いさ》という自身の手による歌詞が、まるで会場に語りかけられるように響いていった。
敬愛するデヴィッド・ボウイに捧げるカヴァー曲や、「封印していた」というBOØWY時代の曲など、スペシャルな選曲が胸を熱くさせる場面もあった。過去を捨て去るのではなく、過ぎ去った日々への愛をそのまま抱きながら新たな道へと突き進んでいくのだという、布袋寅泰の強く気高い意志を感じさせてくれた、本当に見事なライヴだった。
最後に、布袋が「今夜はサポートバンド、ではなく『GUITARHYTHMオーケストラ』と呼ばせてください」と言っていた素晴らしきバンドメンバーたちを明記しておきたい。スティーヴ エトウ(Percussions)、Frank Tontoh(Dr)、井上富雄(B)、奥野真哉(Key)、奥田晃年(G)、岸利至(Programming)、LOVE(Backing Vo)、小川里美(Opera Voice)。彼らのサポートがあってこその、今回の「完全化」であった。そして、オーディエンスとしてこの夜に立ち会えたことをとても嬉しく思うし、映像作品化を激しく希望する。(杉浦美恵)
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