【コラム】相対性理論の新作『天声ジングル』の「人間くささ」とは?

【コラム】相対性理論の新作『天声ジングル』の「人間くささ」とは?

音楽は、現実に立ち向かうために鳴らされるのだろうか。それとも、現実から逃避するために鳴らされるのだろうか。僕は、どちらでも構わないと思っている。立ち向かうにせよ逃避するにせよ、現実に揺さぶりをかける効力の大きさこそが重要だ。『TOWN AGE』以来2年9ヶ月ぶりという久々のフルアルバム『天声ジングル』をリリースした相対性理論は、音楽の神秘的な効力を解き明かそうとする科学者たちのように、活動を続けてきた。彼女たちは探求・実験の成果をひたすらキャッチーに鳴らすという点で、21世紀のポップミュージックにひとつのトレンドを生み出したグループだ。

『天声ジングル』は、まるでこの世の始まりと終わりを俯瞰する神のようなマクロ視点と、いつもの街角でふいに心を揺らす恋のようなミクロ視点が並列し共存する、リスナーの想像力を刺激してやまないアルバムだ。これをいかにも壮大で大仰な音楽として描くのではなく、2〜5分台のポップソングの型の中で描いてみせるストイックな姿勢が相変わらず凄まじい。前作よりも遥かにタイトに引き締められた、最少限にして適材適所のアレンジにも唸らされる。

昨年のライヴ「回析III」で共演したジェフ・ミルズとの会場限定コラボ作『スペクトル』(後に一般発売)収録曲だった“ウルトラソーダ”では、徹頭徹尾ドリーミーに構築されたバンドアレンジの中で、やくしまるえつこは《遠い星から ミサイルが来るそうだ》の直後に《クリームソーダ飲みたいな ああ》といったフレーズを、耳をくすぐる押韻と共に並列させてみせる。「ミサイル」と「クリームソーダ」が同時に存在する世界と、その2つに同時に思いを馳せることが出来てしまう我々のこんがらがった思考を暴くかのようだ。

音楽の神である弁天様に《もう一回もう一回 天の声聞かせてベイベ》と願う“弁天様はスピリチュア”。また、タイトルからしてヴィム・ヴェンダースの名作映画を連想させる“ベルリン天使”では、映画の中で人間になることを望んだ天使とは逆に《わたしいつか天使になれるはずだから》と歌われている。神秘を解き明かさんとする姿勢の相対性理論だが、実は誰よりも、アートの神秘性にすがろうとする人間臭さが滲み出ていてグッとさせられるのだ。

7月22日には、相対性理論1年4ヶ月ぶりのライヴにして初の日本武道館公演「八角形」が開催される。これまで以上に想像力の広がりを持ち、エモーショナルな『天声ジングル』を発表した彼女たちは、どんな武道館ライヴを繰り広げるのだろう。(小池宏和)
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