『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』OP&EDがつなぐ、鉄華団の希望とは

『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』OP&EDがつなぐ、鉄華団の希望とは

2015年10月から2016年3月まで第1期、2016年10月から2017年4月まで第2期が放送され、全50話をもって終了したアニメ『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』。第1期のキービジュアルにある「いのちの糧は、戦場にある。」との言葉どおり、主人公の三日月・オーガスが所属する鉄華団の仲間、いや家族が、自分たちの安寧の生活を求め、戦いの中に身を投じていくストーリーは、これまでのガンダムシリーズの特徴とは違った、新しい世界観が描かれていた。
そして、今月17日にはアニメに起用された主題歌・挿入歌が完全収録されたコンプリートベストアルバムが発売。曲のラインナップを見てもわかるとおり、OPにはMAN WITH A MISSIONをはじめ、いわゆる「ロックバンド」が多く起用されている。その疾走感のある曲は、戦いのシーンはもちろん登場人物たちの心情にリンクするなど、アニメを彩るにふさわしい演出になっていた。一方、EDではMISIAなど、正反対と言っていいイメージの楽曲が起用されている。ここでは、その曲たちと『鉄血のオルフェンズ』の相互の結びつきを考える。

1 “Raise your flag”/MAN WITH A MISSION(第1話~第13話:オープニングテーマ)
第1話ではエンディングとして使用されたこの曲だが、このアニメの第1期のオープニングテーマとして、アニメそのもののインパクトを十分に印象づけた楽曲といえる。曲のタイトルどおり、鉄華団の「旗」を振りかざしてこれから歩みを進めていく、という象徴となっている。英詞が主だが、《声の限り/声の限り/声の限り叫んで》など、子供たちが自分たちの生活を守るため、必死になって背伸びをし、大人に混じって、奮い立って戦っていく、という情景がインスパイアされる。
イントロでは、幼少時代に過酷な生活を送ってきたことが窺える第1話冒頭とリンクした、モノクロの中に佇む三日月の描写から、赤い血溜まりに足を踏み入れるところで曲のキメがはまっている。これだけでもストーリーが、戦いの中で血が流れ、そしてそれを踏み越えていかなければならない試練に満ち溢れたものになっていくことがわかる。日常から戦闘シーンが描かれたOP映像だが、三日月とオルガの幼少時代と現在の関係性が今後、ストーリーを引っ張っていくカギとなることを物語っている。

2 “オルフェンズの涙”/MISIA(第2話~第13話、第21話:エンディングテーマ)
まさにこのアニメのために書き下ろされた楽曲。「オルフェンズ」とは「孤児たち」という意味であり、壮大なバラードで、愛と悲しみを歌っている。《オルフェンズ 宇宙へ 僕らは今 希望という船を出そう》という歌詞は、まさに鉄華団が自分たちの希望のために宇宙へ出ていくさまを表しているが、《オルフェンズ 友よ 手をふる君は 戦う意味を知っていたの?》からは、戦いの中で死に別れることや手にかけることを知り、子供ながらにその意味を理解しようとし、それでもオルガを団長として、鉄華団の家族たちがついていくという、希望と相反した自身の感情との戦いが表現されている。まさに、「過酷な現実に生きる子供たち」を描いた楽曲。
ED映像では鉄華団のメンバーがバルバトスに乗り、笑顔でいる様子がワンカットで使用されていることが「希望」を表しているように感じるが、そこでの歌詞が《強者たちは夢のかけらに 何を見るのだろう》であることから、この穏やかな風景は一時のまやかしなのではないかとも捉えられ、理想の姿であることが窺える。

3 “Survivor”/BLUE ENCOUNT(第14話~第25話:オープニングテーマ)
鋭いギターのイントロが印象強いこの曲。第1期の後期オープニングテーマとして、こちらも勢いがあり、また、BLUE ENCOUNTというバンドイメージからも熱量の高さと想いの強さが漂ってくる。《We are 最後のサバイバー》という歌詞は、これまでの13話の中でさまざまな戦いや苦しい想いを乗り越えてきて成長した鉄華団をイメージできるし、《地を這い立ち向かうよ》もまさに這いつくばってでも自分たちの力で困難を突破していくさまがはまっている。しかし、《どうにかなりそうだよ 偽装した理想 思想/どうにかしてくれよ 武装した野望 希望》からは、理想に向かって傷つきながらも突き進む彼らの中にある不安や、やむを得ず戦うことを選んでしまった後悔の念も見える。
イントロで水たまりを勢い良く踏むカットがあるが、これは前期の血溜まりを踏むカットと対比して、成長した彼らは、血ではなく、雨が上がって晴れた空の下、水たまりを踏んでいるのである。そしてモノクロではなく陽の光に当たった鉄華団のメンバーが清々しく凛々しい顔で進んで行く描写になっている。しかし、クーデリアの描写は、顔に不安をにじませ、そして後ろにはボロボロになったバルバトス、という、突き進んで行く鉄華団についていくことを躊躇っている様子を窺わせる。映像の中での各キャラの顔は最初の頃からの成長がひと目でわかり、目に光も宿って、目的のために意志をもっているさまがわかる。戦闘シーンではギャラルホルンも顔を揃えるが、バトルではなく向き合う描写となっているのは、ここまでの物語で、ギャラルホルンにもストーリーがあることが明かされているからだろう。お互いが意志をもった戦いをしているのだ。そこで空と地が一体化しているような水辺の上に佇むクーデリアは、立場もあり鉄華団のように突き進んで行くことができず、直接力になれない自分に悔しさを抱えながら佇んでいる。しかし、最後、振り向き駆け出すシーンは、クーデリアを解き放つ存在が現れることが想像できる。

4 “STEEL-鉄血の絆-”/TRUE(第14話~第18話、第20話、第22話~第25話:エンディングテーマ)
ノスタルジーが漂うこの曲。幼少時代の三日月とオルガから、それぞれの「普通」の生活の様子が描かれる映像は、ふたりがかつて望んだ光景のように思える。《ちぎれた雲にあこがれてた 子どもの頃/おもちゃの羽根で 飛んで行ける気がしていたんだ》という歌詞は、まさしく幼少時代のふたりの映像とリンクする。そして《―血よりも深い 鉄の華 愛は絆になる―》はまさに家族という深い愛と絆で結ばれた鉄華団のことである。《前だけを見据えたなら 希望は手の中に/負けないで いのち燃やして》三日月とオルガが見据えるのは希望という「幸せ」な生活。それを守るために戦う、という意志が強く感じる。数々のアニメソングを務めるTRUEだからこそ、ここまで作品に寄り添った楽曲に仕上がっているのだろう。そして、アニメから離れても、聴く人の背中を押す応援歌にも聴こえる。それはつまり、このアニメが、「ガンダム」というモチーフはあれど、普通の人間のさまざまな生活の中にあるストーリーとリンクしているということなのだろう。

5 “RAGE OF DUST”/SPYAIR(第26話~第38話:オープニングテーマ)
第2期1話目となる第26話ではEDとして使用された前期OP。25話の物語の中で成長し、その中でぶつかる理不尽や怒りを糧に、荒々しくも進んでいくような強さが表現された楽曲。《勝ち取りたいものもない/無欲なバカにはなれない/それで君はいいんだよ》オルガは団長として、大人の世界に混じり、家族の安寧のために奮闘するが、そのためには嫌なことも引き受けなければならない。しかし三日月をはじめ鉄華団のメンバーは、オルガについていく。《ヒリヒリと生き様を/その為に死ねるなにかを/この時代に叩きつけてやれ》怒りを糧に、どんなやり方でもいい、自分たちは自分たちのために生きていくという決意が歌われている。
映像では、戦いが日常の一部となった彼らの「普通」のシーンから、マクギリスの姿、そしてアリアンロッド艦隊、仮面の男など、第2期の物語の要素が多く含まれ、鉄華団が引き続き波乱に巻き込まれていくさまが予想できる。さらに、三日月が地面を這いずる姿は衝撃的で、今後の展開で三日月にただならぬ事態が起こることが容易に想像でき、それでも、自分がどうなっても、仲間や家族のために立ち向かっていく決意が、空に、すでに自分のものではなくなった手を伸ばす姿から汲み取れる。自分がどうなっても、という意志が伝わってくる。

6 “少年の果て”/GRANRODEO(第27話~第38話:エンディングテーマ)
この曲もノスタルジックで、それでいてロックなバラード。物語の中で戦う三日月やオルガたちが「少年」として表現されている。しかし《たまには空を飛んで違う世界の青を見たい》《少年のように高く見下ろしていたい》は、大人の中で生きざるを得ない、少年たちが大人の視点で物事を考えていることも描かれている。《僕を睨む僕がここにいる》はまさに、「これが自分たちの本当に望んだやり方か」と、大人になってしまった少年が、少年である自分に問いただされている。
映像では幼少時代の三日月・オルガ・アトラ・クーデリアが描かれている。決して裕福ではない生活を送っていた三日月・オルガ・アトラとは対照的に、綺麗な服を着て日傘を差し、優雅に髪をなびかせるクーデリア。一方、雨を防ぐことすらしなかった3人と、傘で雨を避けるクーデリア。屋根の上で遊ぶ3人は子供らしく微笑ましい、そして、その光景を見つめるかのようなクーデリアの笑顔は、少し大人びている。住む世界、環境、全てが真逆でも、目的が一緒なら、手を取り合い、命をともにする仲間となって戦う未来が、この後待っている。その何年も前に、こうしてつながっていたんだと思わせてくれる。

7 “Fighter”/KANA-BOON(第39話~第50話:オープニングテーマ)
物語はまた新たな展開へ。そのOPを飾ったこの曲は、「戦場での一瞬の輝き」がテーマとのことで、OP映像では「花」がモチーフとなっている。冒頭、まず彼岸花が画面一面に。そしてオルガのシーンでは風に揺れる一輪のコスモス、しかしそこには赤い花びらが舞い、鉄華団メンバーのシーンでも同様に赤い花びらが舞う。これは彼岸花の花びらだろう。コスモスが頼りなく、強い風に揺さぶられているさまは、オルガの心情、現状、そして物憂げな横顔とリンクするのに対し、彼岸花は大きく、そして決意の表れのように花びらを散らす。この花の花言葉は「情熱」、一方「あきらめ」など。そもそもあまり良いイメージのないこの花は「死」が連想されるし、花自体も有毒性がある。その花が散るさまは、これから起こる苦難を打ち破ることが想像される一方、自ら毒に染まり、散る、という秘めた思いも窺える。そしてその花を、三日月は目に据えているのだ。
《悲鳴にも似た声 聞き慣れたその欠片/本当は自分だと始めから気付いていた》は晴れ晴れとしない顔のオルガ、自身では満足に体を動かせなくなった三日月にリンクし、どんなに辛くとも、もう歩みを止められない、悲鳴をあげたくても声に出せない、そんな心情が読み取れる。《美しくあれ戦士よ》この歌詞をバックに鉄華団メンバーが並んだ背中が描かれているが、そこには見た目の美しさではなく、血と涙と苦しみを含んだ、心情としての美しさが描かれているように感じる。《戦場に咲く華の様であれ ファイター》一瞬の輝き=華として、散る。もう、戦いの場でしか輝けなくなってしまったのだろうか、と思わせられる。

8 “フリージア”/Uru(第39話~第50話:エンディングテーマ)
第2期後期EDとして、終幕感のあるバラード。OPと対比するように、「花」がテーマとなっている。多幸感のある曲調の一方で《果たせなかった約束や/犠牲になった高潔の光》からは、第1期に犠牲になってしまったビスケットのことが思い浮かぶ。その実、ED映像の最後にはビスケットの帽子と、生前のビスケットの笑顔の写真が飾られ、一緒に、今の鉄華団の写真が飾られている。《希望のはな 繋いだ絆が/今僕らの胸の中にあるから/決して散ることはない/生きる力》《希望のはな 繋いだ絆を/力にして明日を強く咲き誇れ/戻る場所なんてない辿り着くべき場所へと/迷いのない旗を高く掲げて/今を生きていく》失ってしまったビスケットという存在が、実はずっと鉄華団の中にあって、それが希望となっていて、どんなにつらくて後戻りできない状況でも、ビスケットと辿り着くはずだった場所へ、鉄華団の、家族の旗を掲げて生きていく。そして、悲しい展開が続いても、最後はみんなで笑って幸せになってほしい、という視聴者の願いも掬い取ってくれていて、『オルフェンズ』という作品を相対的に表現している楽曲といえる。やはり鉄華団が笑顔でいる集合写真は、辿り着く希望の場所なのである。(中川志織)
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする