ケンドリック・ラマー『ダム』からのMVを徹底解説! 今年最重要作の映像をとことん深掘り

2. “DNA.”


続く"DNA."はアルバム・リリース後のシングルで、これもまたマイク・ウィル・メイド・イットをプロデューサーに据え、トラップ・ビートをストレートに導入した楽曲だが、テーマ的にもこのアルバムでも最も際どいものになっている。

歌詞はコンプトンのような犯罪都市で育った自分たちのDNAには崇高さも備わっていれば卑屈さもあるという相反する特性を歌い上げるもの。それは格差と貧困とそれに付随する差別と偏見を乗り越えていかなければどうにもならないという内容で、現状ではコンプトンの住民の黒人のDNAのイメージなんてさぞかし、セックスと金と殺人に取り憑かれているというところだろうと自虐的に訴える内容となっている。

ビデオではケンドリックを黒人の刑事(名優ドン・チードル)が取調室で尋問するという仕立てになっていて、黒人のアイデンティティーの在り様を黒人同士でぶつけ合うという構成が限りなくえぐいものになっている。
しかし、捜査官の方が感電したことでケンドリックのライムが捜査官の意識に侵食してしまい、取り調べ中、ケンドリックのライムをひたすら披露することになってしまうという展開がとても面白くて「実はこれが俺の本音だったんだ!」というドン・チードルの名演が見事過ぎる。
しかも、ケンドリックが動き出すと、そのライムがそれ以前の捜査官の意識を糾弾するような展開になってドン・チードル捜査官もそれに苦悶し、いきなりすさまじいドラマへと化すところがビデオ・クリップとして素晴らしい。

後半ではチードル捜査官に解放されたケンドリックがカンフー服を着込んで街へ繰り出すが、これはブルース・リーと香港カンフー映画へのオマージュだ。カンフー映画では絶対に主人公が屈することなく正義のみを貫徹することへの敬意を示し、その流れで「セックス、金、殺人が俺たちのDNAだと、いつまでも言ってろよ」とケンドリックは世間一般に対して凄んで終わる。

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