【完全解読】改めてカルヴィン・ハリス『ファンク・ウェーヴ・バウンシズ Vol.1』をこれを読みながら聴け(全曲視聴可)

5. Prayers Up
ノトーリアスB.I.G.の"Hypnotize"の元ネタとなったハーブ・アルパートの"Rise"のリズム・セクションを絶妙に変化させたリフをベースにして、トラヴィス・スコットにボーカル / ラップを自在に披露させるトラック。

モチーフが明確で反復的なリフであるのに対してトラヴィスの際立ったボーカルとラップがどこまでも聴かせる構成になっていて、トラヴィスの歌詞のどこまでも祝祭的な明るさがある意味でどこかとても80年代ファンク的でもある。


6. Holiday
これは非常によく出来たファンク・トラックにスヌープ・ドッグがその天才技MCをいなせに絡めていく展開がまるで90年代的ヒップホップ的なファンク・ナンバー。

それが後半にはミーゴスのテイクオフが登場して、その一糸乱れぬ小気味いいフロウにより一気に今様の楽曲になっていく展開がとても刺激的。その合間に聴かせるジョン・レジェンドのコーラスのクラシック感もすごい(名曲のサンプリングとしか思えない)。


7. Skrt on Me
このアルバムで唯一カリブ系のビートを鳴らすトラックで、こうした楽曲に強いニッキー・ミナージュがボーカルを担当しているが、なんとほぼ全編ピッチとテクスチャーを加工したどこまでもかわいいボーカル・パフォーマンスとなっている。

それはこの曲の歌詞のテーマが自分のパートナーは「わたしを女にさせる」「きゅんとさせられる」というものになっているからで、これがニッキーの「女子力」歌ということなのだ。なお、元彼のミーク・ミルのことに触れる最後のヴァースでは途端に普段のニッキーの腰の据わったラップに戻っている。


8. Feels
アルバムからの最新シングルで、シックのナイル・ロジャース風のギター・カッティングでどこまでもゆる~くなった音が魅力的なトラック。ちなみにこのギターはカルヴィンがみずからストラトキャスターで刻んでいる。

ボーカルはファレル・ウィリアムスとケイティ・ペリーの掛け合いに対して、ビッグ・ショーンが長めのヴァースでMCを聴かせる展開になっていて、結果的に本作で最も完成度の高いR&Bトラックになっている。歌詞のテーマはあとで悩むことになっても今の気持ちを隠しちゃだめというもの。


9. Faking It
これはスロー・ファンクに仕上がった曲だが、モチーフやスタイル的には基本的にコンテンポラリーなトラックとなったもので、カミラ・カベロが歌っててもおかしくないものだ。

ボーカルはケラーニが相手に対して、なんでそんなに後ろ髪を引かれるような思いや未練をいつまでも引きずっているのと問い、リル・ヨッティーのMCでおまえはほんとに冷たい女だというものになっている。なお、ここまで聴いただけで、今注目すべき若手アーティストのパフォーマンスのほとんどを聴いたことにもなっている。


10. Hard to Love
アルバムの最後を語るこの曲はミディアム・テンポのバラードで、ギターをかき鳴らすアプローチが80年代ニューウェーヴのR&B系のサウンドを彷彿とさせて、さすがスコットランド出身のカルヴィンだけあるという演出。

ボーカルのジェシー・レイエズはカナダ出身のシンガー・ソングライターで、この特徴ある声の表現力をカルヴィンがいたく買っているということなのだろう。


というわけで、全10曲、37分で終了だが、これはきっと80年頃のシングル・コンピという発想で作られたアルバムなので、これが最適な楽曲数にして時間なのだ。いずれにしても、アルバム・リリース後初のライブとなるのが今回のサマーソニックなので、どういう展開になるのかもとても楽しみだ。
(高見展)
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