サマーソニックではその魅力的なルックスとオーラをふんだんにふりまきながら、実に力強いパフォーマンスを披露したデュア・リパ。過去にはモデルとしても活躍しているのでどっちが本業なのか見極めたいところもあったのだが、そのキャリアが示す通り、音楽活動とそのパフォーマンスに全身全霊を注いでいるのがよくわかる素晴らしいセットだった。
デュアは戸籍上はコソボ出身だが、両親が90年代に凄惨を極めたコソボ紛争を避けてイギリスへ移住していた時期にロンドンで出生し、10代の頃に政情が安定したコソボへと帰還。その後、ミュージシャンを志して15歳で単身再びロンドンに戻ってきたという、実は筋金入りのアーティストなのだ。なにが彼女をそこまで駆り立てたのだろうか。もともと父親がコソボで活動するロック・ミュージシャンだったことも多分に影響しているはずだが、そんな親とともに幼少期をロンドンで過ごしたというのも相当に大きかったはずだ。
そんな家庭の影響で、幼いうちからボブ・ディラン、デヴィッド・ボウイ、スティングやポリスなどを日常的に耳にしながら、自分の年頃を考えて親に勧められて聴いたのがネリー・ファータドで、その後P!NKやデスティニーズ・チャイルドをどっぷり聴いて育つことになったと「NYLON」誌とのインタビューで明らかにしている。そして15歳の時に、音楽をやりたいからロンドンに戻りたいと決心し、学業もロンドンで済ませるという条件で親の後押しも得て、単身ロンドンに舞い戻ったという。
その後YouTubeにP!NKやネリー・ファータドなど好きなアーティストのカバー動画を上げていくという活動を行い、これはコソボ時代から始めていたことだったのだという。これがレーベルの目に留まり、ワーナーとの契約に繋がった。ある意味で、ファイヴ・セカンズ・オブ・サマーやジャスティン・ビーバーと同じで、ユーチューバーだったことが原点のアーティストなのだ。
契約後に最初に形にしたのが、プロデューサーのエミール・ヘイニーとリアム・ギャラガーのソロ新作への参加でも注目されているアンドリュー・ワイアットとのコラボレーションとなった、2015年8月リリースの“New Love”。野趣に溢れるドラム・トラックが特徴的な曲だが、デュアの声域に完璧にはまる楽曲で、見事に彼女の資質を引き出している。印象的なコーラスが聴き手を引き込むトラックとなっただけでなく、ラナ・デル・レイを抱える事務所、タップ・マネジメントに所属したことで、ビデオもうってつけな仕上がりとなって話題の新人としてにわかに注目を集めることになった。
それに続いた“Be the One”はある意味でデュアのサウンドの方向性と、そのクール・ビューティ的なイメージとのバランスをも決定した、ストイックなエレクトロ・ポップとなり、イギリスとヨーロッパ、さらにオーストラリアでブレイク・ヒット。特にベルギーではチャート1位に輝く快挙となった。
翌2016年、デュアは精力的にイギリスとヨーロッパでのツアーを続けながら、“Last Dance”、“Hotter than Hell”と立て続けにリリースしていくが、サマーソニックでもオープナーを飾った“Hotter than Hell”は世界的なヒットとなっただけでなく、どこまでも相手をたぶらかしては奈落の底に突き落としていくその歌の内容がリアーナ以来の「バッド・ガール」キャラの登場を告げる画期的なものだ。
さらにデュアは実はまったく逆の立場に置かれた自分の散々な失恋体験を逆に描いてみたとこの曲のメイキングについて語っていて、その早熟なアーティスト性と資質をよく物語るものにもなっている。さらにそれに続いたシングル“Blow Your Mind (Mwah)”も、「素のわたしが好きになれないってどういうこと?」と相手をぶっとばしていく内容で、デュアのキャラクターとアーティスト性をよく打ち出すものになった。
その一方で、孤独への恐怖から喧嘩ばかりしている相手をどうしても求めてしまう切なさをハウス・トラックとして歌い上げる、オランダのDJマーティン・ギャリックスとのコラボレーション“Scared to Be Lonely”を形にしてみせた後、今年の6月にファースト・アルバムをついにリリース。
アルバムはこれまでのデュアのイメージを忠実に打ち出したものとなったが、シングルの“New Rules”でも歌われているように、デュアの打ち出すバッド・ガールや強面女子としてのイメージはあくまでも逆境にあって自分を鼓舞していくための応援ソングとしてのものだ。それがよく伝わったのか、このシングルはデュアにとって初のイギリス・チャート1位曲となった。なお、ソロの女性アーティストとしてのシングル1位は2015年のアデルの“Hello”以来のことだった。
ここまで至ったうえでのサマーソニック出演だったので、とても素晴らしいものを観たという印象は間違いないものだったし、クール・ビューティのようでいてどこまでもホットなパフォーマンスを繰り広げてみせたあの日のデュアのステージは、まさに自身の表現の表出だったのだということが彼女の軌跡を改めて振り返ってみるとよく分かる。
直近のリリースは、ワシントンDC出身のMC、ワーレイの“My Love”への客演で、冒頭の客演ながらもなかなかの存在感を伝えてくれるのがとても頼もしい。曲のプロデューサーはディプロなので、ディプロの好みによる起用なのは間違いないし、ディプロもしくはメジャー・レイザーとの共演も近々必至だろう。(高見展)