西野カナドームツアーファイナル公演を観て感じた、彼女のライブに宿る2つの魔法について

はじめに声を大にして言わせていただきたい。先週末に東京ドームで行われた、西野カナのドームツアー「Kana Nishino Dome Tour 2017 "Many Thanks"」のファイナル公演、めちゃくちゃ素晴らしかった。

個人的にまず思ったのは、西野カナが身一つで名曲の数々を歌い上げるシーンが一際感動的だったな、ということ。衣装の13変化や一瞬の早着替え、瞬間移動など、オーディエンスをあっと言わせる演出は今回のツアーでも炸裂していたけれど、心身がすべてステージに引き込まれていく感覚や、心がぎゅーっとしぼられて泣きそうになる感覚をもたらしたのは、やっぱり彼女の歌や歌が見せてくれた景色だった。

特に“Girls”は個人的に強く印象に残っている。王冠を被りゴシック風のドレスを身に纏った彼女が、ドーム中に響き渡る壮大なサウンド(この日の公演は全編バンドによる生演奏だった)に乗せ、女性への応援歌を腹の底から力を込めて歌い上げる。そしてそれに呼応するように、観客は赤色の光が灯ったバラの形のフリフライトを、一心にステージへ掲げ続ける――。

この絶景を見たとき、思わず鳥肌が立った。彼女の歌が会場に集った約5万人を完全に統べていることが、目の前でありありと証明されていたからだ。
西野カナにとって、今回のツアーは初めてのドームツアーであり、ドーム規模でワンマンライブをやること自体も初となる。しかし彼女は未体験のキャパシティに怖気づくことなく、むしろ会場全体を自分の歌声で浸してしまおうという野心すら感じさせるくらいの歌唱を聴かせつけ、5万人をしっかりと歌の世界に巻き込んでいた。つまりそれほどの引力と求心力とバイタリティが彼女の歌には秘められていたのだ。それを自らの耳で思い知った瞬間、西野カナはここに立つべくして立ったアーティストなのだと思わずにはいられなかったし、まさに民衆を率いる女王そのもののようだなとも思った。


また、もう一つ胸を打たれたことがある。それは彼女が歌い続けてきた恋愛ソングが、あらゆる方向に愛を放射する「ラブソング」に見事に変化していたこと。

来年でデビュー10年を迎えるという西野は、「Many Thanks」というツアータイトルの通り、ライブ中に何度も「ありがとう」と発し、ファンへの感謝の意を述べていた。本編ラストでは(涙が出そうなのかやや声を詰まらせつつ)、「(ここまで来れたのは)全部みんなのおかげやと思ってます」と発言し、“トリセツ”を披露。この原稿をお読みの方なら誰もが知っているであろう、恋人へのお願いが羅列されているあのナンバー……なのだが、このMCのあとに聴いたそれは、本来のイメージを大きく超え、恋愛ソング以上の意味を持つ楽曲と化していた。

《この度はこんな私を選んでくれてどうもありがとう。》、《これからもどうぞよろしくね。/こんな私だけど笑って許してね。/ずっと大切にしてね。/永久保証の私だから。》――そう、“トリセツ”はこの時、西野カナとファンとの強い結びつきと、彼女の歌手人生への思いを描いた楽曲に変身していたのだ。

数あるポップスの中で自分の音楽を聴き、ライブに足を運んでくれたファンがこんなにもいること。そしてそんなファンのために、「永久保証」の歌を聴かせ続けること――。思い込みかもしれないが、西野がそんな感謝の念と決意を胸に秘めていることが、彼女の歌う“トリセツ”からじんわりと感じられたのだ(だからなのだろう、この曲を聴いている時にいやに泣けてきてしまったのは)。もしかしたら西野カナが10年間歌い続けていたことは、「恋愛」じゃなくてもっと広義での「ラブ」だったのかもしれない――。そんなことを思った。


そのほか、移動式ステージや気球に乗ってアリーナから2階スタンドまでを隈なく巡り、すべてのオーディエンスとの距離感を自ら詰めていったところも粋だなと思ったし、世武裕子の煌めくピアノと静かに語り合うような新曲“手をつなぐ理由”、この日初披露となった初期の失恋ソングを想起させる楽曲“One More Time”も本当に素晴らしかった。心から「10周年おめでとう」と言いたくなると同時に、この先もいい曲がたくさん待っているんだろうなと予感させる、本当に記念すべき、そして愛すべきライブだった。(笠原瑛里)
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