銀杏BOYZは「恋とロックの3部作」と武道館でどう時代と対決するのか?

銀杏BOYZは「恋とロックの3部作」と武道館でどう時代と対決するのか?
今年の5〜6月に行われた自主企画「東京のロック好きの集まり」、「大阪のロック好きの集まり」、「仙台のロック好きの集まり」、さらに各地夏フェスやイベント出演を経て、いよいよ10月13日(金)に初の日本武道館ワンマン「日本の銀杏好きの集まり」が開催される。

2017年の銀杏BOYZ峯田和伸は、周知のとおりNHK連続テレビ小説『ひよっこ』で好演を見せる宗男おじさんとして、全国の朝の人気者になった。そんなタイミングで行われるデビュー14年目の初武道館には、7月から3ヶ月連続でリリースされてきたシングルによって周到に盛り上がりが育まれてきた一面もある。

ピュアだからこそ不器用な生き様の煌めきを、また、無様だからこそ力強い愛とリビドーの迸りを伝えてきた銀杏BOYZにとって、史上最高に華やかなステージとなりそうな予感はビンビンにある。一方で、ただの楽しいお祭りで済まされるはずがないという気もする。理由はやはり、「恋とロックの三部作」と位置付けられた連続シングルの手応えによってだ。


まずは7月リリースの“エンジェルベイビー”。ドラマ仕立てのMVは衝撃的な内容であった。歌詞の内容は、ロックの味を知って孤独な魂が救われる、そんな青春の原体験が綴られているのだが、この曲が流れてくるドラマの中では若い学生の僕ではなく、父親が救われてしまっている(?)のが可笑しい。


8月にリリースされた“骨”は、安藤裕子への提供曲をセルフカバーした内容であり、ねちっこくへばりつく愛のソウル歌謡/ビートポップが強烈だ。MVの中で、峯田と並んで楽しげに高円寺の商店街を歩くのは麻生久美子。映画『アイデン&ティティ』からNHK BSプレミアム『奇跡の人』まで、峯田が出演してきた映像作品の中で重要なパートナー役を担ってきた人だ。ちなみに、安藤裕子も麻生久美子も、2016年末にリリースされた銀杏BOYZのトリビュートアルバム『きれいなひとりぼっちたち』に参加している。


そして9月末にリリースされた“恋は永遠”。MVの中で、男たちが恍惚とした表情を浮かべ憧れの眼差しと手拍子を送るのは、“恋は永遠”で美しく艶やかに舞う、ステージの上の銀杏BOYZファンと思しきストリップ嬢である(楽屋には、銀杏の書籍『GING NANG SHOCK!』や峯田の『恋と退屈』、『ROCKIN'ON JAPAN』などが積まれている)。

「恋とロックの三部作」のテーマは、ロックの原体験(“エンジェルベイビー”)で始まり、銀杏=峯田のキャリア(“骨”)を経由して永遠(“恋は永遠”)へとたどり着く。しかし、その3曲のMVから浮かび上がってくるのは、銀杏=峯田と共にいい歳の大人になった人々であり、一種の「取り返しのつかなさ」であり、覚悟である。ここにあるのはもう、青い情景ではない。

ノイジーな爆音を掻い潜ってなお伝わるほどの、キラキラとしたスウィートな旋律。それが救うものは何だろう。愛の欠落を埋めようとして、孤独を塗りつぶそうとして聴いたロックは、本当に何かを変えたんだろうか。今ここにあるのは、相変わらずクソみたいな自分と毎日なのではないだろうか。峯田和伸は苛立っている。だから、「恋とロック」などというど直球のテーマを掲げ、ベタベタの美メロを綴り、渾身の力で歌ったのだ。

ビートルズは武道館に立った翌年の1967年、つまり今から50年前に、“All You Need Is Love”(愛こそはすべて)と歌った。本当だろうか。ロックで何が満たされるのだろうか。魂か? 時間か? 銀杏BOYZの武道館は、そのことを試すようなステージになるのではないかと思っている。ロックというだけで無邪気に笑える時代ではないからこそ、ロックの真価を試さなければならないと思っている。楽しみだ。(小池宏和)
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