ゲーム・クリエイター小島秀夫、『スター・ウォーズ』最新作の画期性を解説。「誰だってヒーローになれる」

ゲーム・クリエイター小島秀夫、『スター・ウォーズ』最新作の画期性を解説。「誰だってヒーローになれる」

※12月15日より公開中の映画『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』のネタバレが含まれます。お気をつけください。



ゲームクリエイターの小島秀夫が「Rolling Stone」のゲーム専門サイト「glixel」に『スター・ウォーズ』シリーズ最新作『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』についてのエッセイを寄稿し、シリーズにおける本作の画期性について解説している。

小島はまず、1977年のシリーズ第1作の『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』について、ジョージ・ルーカス監督はこの作品で映画だけでなくエンターテインメント業界全体に革命をもたらしたと評した上で、今回の『最後のジェダイ』は自身が「抑圧されているものを解放し、新しい領域とコンセプトをもたらす」ような「革命」と呼べる作品ではないことを断っている。

その前提のもと、今回の『最後のジェダイ』は21世紀にふさわしい内容の『スター・ウォーズ』作品になっていると述べる。

たとえば、今回の『最後のジェダイ』では帝国軍の残党のファースト・オーダーとレイア姫ことオーガナ将軍率いるレジスタンスとの絶え間ない抗争が描かれる内容となっているが、シリーズを通したテーマが敷かれる一方、この作品に顕著な特徴もまたあると指摘する。

劇中でカイロ・レンはファースト・オーダーの最高指揮官のスノークを殺害しクーデターを決行することで、レイに銀河系の支配に加わらないかと誘う。しかしこれは実現せず、カイロの行為は結果的にファースト・オーダーを継承するという形として描かれる。

さらにレイア姫からホルド提督への指揮権の委譲が描かれる他、ルーク・スカイウォーカーからレイへのジェダイの代替わりなど、本作には「継承」というモチーフがやたらと目につくことも指摘。そこで、ひとつの革命だった1作目の『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』第1作についても振り返っている。

小島は公開当初大きな社会現象となった『スター・ウォーズ』1作目に興奮した1人だったとしながらも、この作品がSFとして括られていることには当時から違和感を覚えていたという。

というのも、SFというのは現代社会が抱える問題を違った視点から描出するのが通例となっていたからで、『2001年宇宙の旅』、『猿の惑星』、『ソイレント・グリーン』、『赤ちゃんよ永遠に』、『ゴジラ』などの作品群がその代表格とされていた一方で、『スター・ウォーズ』には思想性がまるでなく、バカバカしい子供向けの作品だと批判されたこともあったのだと説明する。

しかし、そもそも『スター・ウォーズ』はそれまに存在していた類のSFではなく、むしろ宇宙を舞台にしたおとぎ話だったという意味で画期的だったのだと指摘しつつ、そんな一作品から新たなジャンルとカルチャーが生まれたという意味で革命的だったのだと説明している。

このことについて小島は、内容的には比較神話学者ジョゼフ・キャンベルの著書『千の顔を持つ英雄』をベースにした物語に、特に父と子の相克や成人への旅路と試練などを強調するという、それまでのSFとはまるで違ったアプローチになっていたと説明。加えて、そうしたテーマを軸に紐解かれていくスペースオペラの中にフォースやジェダイなど、明らかに東洋神秘学に影響を受けたモチーフを導入したことも画期的だったことを挙げている。

ゲーム・クリエイター小島秀夫、『スター・ウォーズ』最新作の画期性を解説。「誰だってヒーローになれる」

その一方で、60年代後半から70年代にかけて大きな潮流となったどこまでも自主制作に近いアプローチを試みるアメリカン・ニューシネマの時代は『スター・ウォーズ』の登場によって終焉した、という見方については、ジョージ・ルーカスはむしろアメリカン・ニューシネマの自主制作精神をまったく新しい次元へと持っていったのだと否定する。

ルーカスが『スター・ウォーズ』のために制作会社を設立しVFXやCGの発展を準備する画期的な土台になったことや、マーチャンダイズの利権を掌握したことなどを挙げ、『スター・ウォーズ』としての世界観を確立することに成功したことがその後に続いた映画製作にとっての先駆的手法となったと説明している。

しかし、それだけに『スター・ウォーズ』シリーズとして製作される作品は『スター・ウォーズ』という枠にはめられがちなものになるが、「『最後のジェダイ』はこの課題に果敢に立ち向かっていく作品」と述べ、その課題を前に「継承と代替えを描く、現代的で21世紀的な『スター・ウォーズ』の物語を綴ろうと決意した」ライアン・ジョンソン監督は「本当の意味で輝いている」と評している。

そして本作のストーリーについても、3部作の第2部としはいたしかたなくとても単純な構成になっていると指摘しながら、自身がこの映画を観てすぐに連想したのが『ダンケルク』だったということもからも明らかなように、この作品では物語を綴るよりは脱出劇を描くことに重きが置かれており、そのためにキャラクターの表情と状況の描写に重点が置かれているのだと説明。

こうしたことを理由に、レイ、フィン、ポー・ダメロン、カイロといった前作『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』からの顔触れの役柄の深化が試みられているのだと指摘する。

また、レイア姫、レイ、そしてフィンの相棒のローズなど女性キャラクターの働きの描写に力点が置かれているところなどはオーディエンスが日常的に経験している社会的な問題を取り上げるものになっているとも指摘するも、最も重要なのはジェダイを継承していくレイが平民の出だというところで、これはこれまでのキャラクターの多くの設定に反するものだと述べる。

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つまり、カイロ・レンであれば、レイア姫とハン・ソロの息子で元ルーク・スカイウォーカーの弟子、そしてルークはダース・ベイダーことアナキン・スカイウォーカーの息子と、これまでの主要人物には少なからず貴種としての性格付けが伴っていたが、それに属さない存在が描かれ始めたところがこの作品のポイントだと次のように説明している。

王権が血筋に従って継承されていくように、フォースもまた選ばれたものに伝えられてきたものだった。少なくとも、今までは『スター・ウォーズ』の観方というのはそういうものだった。『最後のジェダイ』ではそうしたものは一切放棄されている。

誰だってフォースを覚醒させることができる。誰だってヒーローになれる。スポットライトは一握りの特別な人たちのために用意されているわけではなく、誰のことをも照らすことができる。レイア姫はもう姫ではなく、将軍であって、この役職は誰かに取って代わられることが可能なものなのだ。


『最後のジェダイ』は『スター・ウォーズ』をその神話の時代から解き放ち、現在へと上昇させていくための、初の試みだといえるのかもしれない。エンディングで男の子が希望を持って星空を見上げるのは、まさにこうした意図をほのめかすものなのかもしれない。

『スター・ウォーズ』においては誰だってヒーローになれる。『最後のジェダイ』がぼくたちに伝えているのはそういうことなのだ。今は新しい時代に入ったのであって、王のいない王国が始まったのだ、と。


なお、小島はこのエッセイの中で自身の作品『メタルギアソリッド3』が『スター・ウォーズ』シリーズからの影響を頻繁に指摘されることにも言及。この件について小島は、この説は実際には違っていて、むしろ『猿の惑星』シリーズやスティーヴン・ハンターの小説シリーズ『スワガー・サーガ』の物語構造を参照したものだったのだと明かしている。




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