【来日予習】ゴリラズはこうして「覆面バンド」として登場し、その覆面を脱ぎ捨て今も進化を続けている

【来日予習】ゴリラズはこうして「覆面バンド」として登場し、その覆面を脱ぎ捨て今も進化を続けている

きたる6月、ゴリラズがついに単独来日を果たす。昨年のフジロック以来のステージであることよりも、これが彼らにとって初の単独来日公演となる意味合いのほうが遥かに大きいのではないか。

ゴリラズの結成は1998年だから、実に20年越しの初単独なのだ。でも、単独来日に20年もの歳月を要したのも、ゴリラズの活動履歴を思えば仕方がなかったとも言える。バーチャル覆面バンドである彼らの性質上、ライブ活動自体がある時期まで極めて限定的なものにならざるをえなかったからだ。


デーモン・アルバーンとジェイミー・ヒューレットによって構想されたバーチャル覆面バンド、ゴリラズ。初音ミクだなんだと今でこそ「バーチャル・アーティスト」は当たり前に理解されるコンセプトだが、20年前の時点では極めて新しいアイディアだった。

デーモンがサウンド面を担当し、『タンク・ガール』で知られていたジェイミーがキャラクター・デザインやストーリーを担当。マードック、2D、ヌードル、ラッセル・ホブスと各メンバーのキャラクターは詳細なキャラ設定を与えられ、厳密にイメージ・コントロールがなされていた。デビュー・アルバム『ゴリラズ』(2001)当時、2D(デーモン)に電話インタビューする機会があったのだが、電話の向こうでデーモンは声色や口調も変えて律儀に2Dになりきっていたのを覚えている。


ゴリラズが結成された1998年と言えば、デーモンがブラーの『ブラー』(1997)で脱ブリットポップを果たした直後。彼は数年にわたって続いたバンド・ブームとしてのブリットポップ、セレブリティとしてゴシップ誌やパパラッチに追いかけ回された経験にうんざりしていて、いわゆる既存のギター・ロック・バンドのイメージを覆す、自身の新しい表現のアウトプットを模索していた時期だった。

ダブやレゲエ、ヒップホップにソウルと、自身の幅広い音楽嗜好を自由に発展させられる活動、それを実現させるためには「デーモン・アルバーン」、「ブラー」の既存のイメージは消し去る必要があると当時のデーモンは考え、そこで生み出されたのが完全な別人格と匿名性が担保されたゴリラズだったのだ。


そんなゴリラズの初来日は、デビュー・アルバム『ゴリラズ』がリリースされた2001年。ソニックマニアでのステージだった。デビュー・アルバムのツアーは本数も少なく、ショーケース的な意味合いで行われたものが多かった。そして数少ない彼らのパフォーマンスは全て巨大スクリーンの裏側で行われ、観客に見えるのはスクリーンの映像だけという徹底した覆面ぶりだった。

ちなみにソニックマニアでのゴリラズの出演は0時を回ったド深夜の時間帯。薄暗い幕張メッセのステージはスクリーンで覆われてデーモン他メンバーの姿は一瞬も見えず、(恐らくデーモンが吹いている)ピアニカのか細い音色が「ピポ〜」とスクリーンの向こうから聴こえてくるという、なかなかシュールなシロモノだった。昨年のフジのステージでデーモンは「やっとゴリラズが日本に来ることができたよ。2001年にも一瞬来たけど、あの時はスクリーン越しだったしね」と言っていたが、彼の中でもデビュー当時のゴリラズのスクリーン越しライブは「ゴリラズの100%のライブ」ではなかったという認識なのだろう。


バーチャル覆面バンドというあまりにも突拍子のないコンセプトゆえに、ゴリラズは一作かぎりの企画バンドだとも考えられていた。しかし、2005年に4年ぶりの2ndアルバム『ディーモン・デイズ』がリリースされ、世界的大ヒット・アルバムとなったのはご存知のとおり。

現在までコラボが続くデ・ラ・ソウルを筆頭に、ショーン・ライダー、ネナ・チェリー、デニス・ホッパーら豪華ゲストを迎えて制作された『ディーモン・デイズ』は、サウンド面とビジュアル面が対等の関係であった『ゴリラズ』と比較するとサウンド面の比重が一気に増したアルバムであり、それと比例するように、ライブ・パフォーマンスもビジュアル面が後退し、徐々にサウンドとプレイヤーが前に出てくるようになった。とは言え、当時のライブはまだステージ上のデーモン他メンバーはライトが当たらない黒子であり、バーチャルの建前はかろうじて保たれていた状態だった。

そんなゴリラズのライブ観に180度の方向転換が生じたのが2010年の3rdアルバム『プラスティック・ビーチ』のタイミングだ。彼らは同作で初めて大規模なワールド・ツアーを行い、グラストンベリーやコーチェラといった巨大フェスにも出演。遂に「素顔」でステージに立ち、圧巻のバンド・パフォーマンスを繰り広げた。


最新作『ヒューマンズ』(2017)の豪華ゲストが曲毎に入れ替わり立ち代わり参加するアルバム・コンセプト、ゲストたちと共にバーチャル・バンドの建前を取っ払った極めてフィジカルでリアルなパフォーマンスを繰り広げるツアーは、そんな前作『プラスティック・ビーチ』を踏襲したものとなっている。

「今、この時代」を直反映したポリティカルな怒りと憂いのアルバムでもある『ヒューマンズ』のダイレクトなメッセージ性が、そのまま現在の彼らのライブのモチベーション、滝のような汗をかきながらシャウトし、踊り、ピース・サインをぶち立てるデーモンのパフォーマンスに直結しているとも言える。昨年のフジのステージの最中に、彼が2Dというキャラクターであったことを意識したオーディエンスはほぼ皆無だったはずだ。


さて、そんな『ヒューマンズ』ツアーでの初単独来日。今年の同ツアーは3月のメキシコ公演からキックオフで、6月の来日を経て現時点で8月までの日程が発表になっている。ツアー・コンセプト自体は昨年のフジから大きく変化はないと思われるが、このツアーの注目ポイントは「ゲストは誰か、何人ゲストを連れてくるか」という点だ。

ノエル・ギャラガー、ヴィンス・ステイプルズ、デ・ラ・ソウル、ベンジャミン・クレモンタイン、ペバン・エヴェレット、ゼブラ・カッツ、サヴェージズのジェニー・ベス、ジェイミー・プリンシプル、ダニー・ブラウン、プシャ・T、D.R.A.M.、ポップカーン……他、錚々たる面子が入れ替わり立ち代わりフィーチャリングされた『ヒューマンズ』は、ツアー地の地理的条件、ゲストの物理的スケジュールによって、各地各公演で登場ゲストが変化する。

ちなみに昨年のフジはペバン・エヴェレット、ゼブラ・カッツ、ジェイミー・プリンシプルという面子だった。さあ、今年はどうなるか?! (粉川しの)

来日の詳細はこちらから。

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