そんな『アンナチュラル』の主題歌として、米津玄師が書き下ろしたのが新曲の“Lemon”だ。ドラマの放送開始時より話題となっていた同曲は、3月14日(水)のCDリリースに先立って、2月12日より先行配信がスタート。先行配信後、各配信ダウンロードサイトで続々と1位を獲得し、デイリーランキング1位獲得数は21冠となった。
スネアやクラップによる2・4拍目のビートが、ふと途切れた時に訪れる静寂。美しいコード進行をわざと濁らせるように配置されている、いくつかの音の存在。遺された者/去っていった者という、二者の目線から描かれている歌詞。聴く人によって明るくなったとも暗くなったとも捉えられるような、Cメロでの転調。それまでファルセットで歌っていた音域で地声を張り上げることにより、終盤で一気に熱量の増すボーカル――。
「喪失」という「変化」、遺された者の悲しみを歌う“Lemon”は、人の生死を扱う『アンナチュラル』の世界観を巧みに体現している。そしてドラマでこの曲が流れるのは、いつも決まってクライマックスーーもっと言うと、登場人物にとっての「普通にやってくるはずだった未来」が途絶えた瞬間ーーだった。例えば、監禁された女性が叶うことのなかった願いを口にした瞬間。家族の元へ帰ろうとバイクを走らせる男性が転倒した瞬間。被害者の恋人が加害者へ報復するためにナイフを振りかざした瞬間。“Lemon”がそうであるのと同じように、『アンナチュラル』はその「喪失」を容赦のないほど執拗に、残酷なほど丁寧に描いている。綺麗事は言わない。お約束の展開もない。予定調和は歌わない。だからこそ表現できるリアリティのある希望、つまり「生きるということ」が描かれているのが両者の共通点であろう。「法医学は未来のための仕事」とは第1話でのミコトの台詞だが、《今でもあなたはわたしの光》と繰り返し歌う“Lemon”の根底にもまた同じような哲学が流れているのだ。
最新話でも“Lemon”が流れたタイミングは絶妙で、2月も下旬に入り、『アンナチュラル』の物語がいよいよ佳境に突入したことを暗に示しているかのようだった。法医解剖医・中堂 系(井浦 新)が向き合い続ける「答えの出ない問い」に決着が着くのかどうか、UDIラボと週刊誌の出版社でバイトを掛け持ちする久部六郎(窪田正孝)がどこに落としどころを見出すのかなど、これまでの放送を通じて描かれてきた問題もここから解決に向かっていくことだろう。物語はどのようにして「光」の方へと向かっていくのだろうか。“Lemon”が流れるタイミングに注目しながら、ぜひ、今後の放送も楽しんでみてほしい。(蜂須賀ちなみ)