ドラマ『アンナチュラル』のサウンドトラックと共に構成されたこの動画はインタビュー+ナレーションという形式になっており、このような形で米津がインタビューを公開するのは今回が初めてとのこと。その中で語られた内容は、音楽活動の経歴、“Lemon”やカップリング曲“クランベリーとパンケーキ”、“Paper Flower”制作時のエピソード、武道館で菅田将暉と共に“灰色と青”を歌った時の感想など。全体的に情報開示的な側面が強く、番組内のナレーションの言葉を借りるならば、「これは米津玄師という人間と、彼が生んだ作品『Lemon』を究明する手がかり」だという。
そういうことか!と思わず声を上げたくなる場面は何度もあったが、個人的に特にその感覚が強かったのは、“Lemon”は「踊るように死を歌う」曲なのだという話をしていた時。時代を遡ると元々祈りの要素を含んでいる「踊る」という行為と死者を悼み「祈る」という行為に近いものを感じているという米津は、それを表現するため、ヒップホップ調のトラックと歌謡曲調のメロディを重ね合わせることを思いついたのだそう。サウンド自体は新鮮味があるけども、その根底にあるのが古きよき日本の文化だというねじれもなかなか興味深いし、これを知ると、MVの見え方もまた変わってくるから面白い。
すでに先行配信&MV公開がされている“Lemon”はCD発売前から大きく話題になり、ファンの間では活発に意見交換がなされていたが、このように公式からまた新たな情報が提供されたことにより、考察を深める余地がまた生まれたというわけだ。さらに、MVでのハイヒールや「レモン盤」に付属されているレターセットの由来に関しては過去のTwitterにヒントが隠されていたというのだからゾッとする。つまり、「これは米津玄師という人間と、彼が生んだ作品『Lemon』を究明する手がかり」とアナウンスされたこの番組の中だけではなく、「手がかり」はありとあらゆるところに散りばめられているということなのだ。
また、米津自身によるリアルな言葉を通して、ミュージシャンとしての彼の変遷が浮かび上がったことの意味は大きい。米津玄師名義でリリースした初のアルバム『diorama』(2012年)での、J-POPをやったという本人の手応えとそれを風変わりなものだと解釈した世間との乖離。悩みを経て掴んだ、普遍的で美しい音楽を作るために「自分と人との間に共通するルールのようなものを大事にしていく」という価値観。それを実行に移していった、“ナンバーナイン”以降のタイアップ曲/コラボ曲制作ラッシュ――。『Lemon』をリリースした今だからこその結論として、米津は「個人的であることと普遍的であることは相反しない」というふうに話していた。今回、インタビューというある意味かなり個人的な表現を発信することに決めたのにも、おそらくその辺りの変遷が関係しているのではないだろうか。
番組はYouTubeの米津玄師オフィシャルチャンネルにて公開中。ぜひチェックしてみてはいかがだろうか。(蜂須賀ちなみ)