『anone』を最終話まで観て

「止まない雨はありませんよ。夜明け前が一番暗いんです」

ドラマ『anone』の冒頭は、医者が患者(阿部サダヲ演じる持本さん)に、いかにも用意されたような「名言」と共に死期が近いことを伝えるところから始まる。
『anone』の脚本家・坂元裕二も数々の作品でドラマ史に残る名セリフを残しているけれど、このオープニングは、言おうとして言った名言や、書こうとして書いた名セリフというものを、生きるか死ぬかに切迫感を持っている人にとって無意味なものとして痛烈に批判している。
最終回まで観て、改めてそう思った。

以前、僕はこのドラマの第1話の感想として以下のようなことを書いた。

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とりあえず今、登場している主要登場人物はみな精神的に孤独。
そんな孤独な個人たちの群像劇の中で、今の時代において、いろいろなものの価値が変容していることを炙り出していく。
たとえば「思い出」「居場所」「お金」「名前」、そして「命」までも。
この世界の中で、自分が生きていく価値とは?
そんな問いを抱えて迷子になっている人にとって、このドラマは必ず効く薬になると思う。
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そして最終回を観て思ったのは、そんな時代の中で、自分で自分の人生をもう一度始める覚悟を持てる人のためのドラマだったということ。

偽物はやはり偽物で本物にはなれないけれど、偽物だからつける優しい嘘だから守れるものがある。
嘘でも罪でも大切なものを失くしても、それがあなたの意志が選んだ、あなたにとっての本当ならば、その結果としての今と、その先の未来はあなたのもの。
その先に幸せを願う自由がある。

そんなささやかだけど大切なことを描ききったこのドラマから、最後まで目を放すことができなかった人は、できあいの名言にはちっとも救われないくらい生きるか死ぬかに切迫感を持ちながらも、愛や希望や人間の優しさを信じたいと願っている人だと思う。

そんな人と今、無性に話がしたくて仕方がない。(古河晋)
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