Takaryu『Resources』のポップとダンスの融合が新しい時代の「声」となる理由

『Resources』
なんて豊かな聴き応えを誇るポップミュージックなのだろう。

4月11日に、初のフルアルバム『Resources』をリリースした、現在18歳の音楽プロデューサー=Takaryu。昨年末に公開されたMV“Resource feat. Annabel”のときも興奮と狼狽混じりのテキストを書かせてもらったが、このアーティストは本当に凄い。


瑞々しく流麗なシンセリフのイントロ“A Place Called…”から、シームレスに繊細なガラージチューン“Left-field (ft. 綿めぐみ)”へと連なり、Takaryu自らがボーカルを務める“Null (version)”は往年のWarp作品を思い出させるIDM/ヒップホップ作になった。ボーカルチョップごと高速回転するドラムンベース“Refusal”も、キャッチーな手応えを保ったまま野心的なプロダクションを明瞭に伝えている。このアルバムの導入部だけでも、もの凄い勢いで表現レンジを拡大しているさまが、手に取るように分かる。

3月に、Takaryuと話をさせて貰う機会を得たのだが、まだあどけなさを残した表情でおずおずと語る彼はしかし、自身の成長をクールに分析し自覚していた。「(前作ミニアルバム)『MANUAL』のときはメロディが可愛すぎたなっていう気持ちがあって、今はあんまり聴き返すことはないですけど、この『Resources』は聴くことが多くて、自分の好きな曲をちゃんとスピーカーで聴くと、やっぱ俺、いいなって思いますね(笑)」。Apple Musicで「今週のNEW ARTIST」に抜擢された『MANUAL』すら、彼にとっては既に過去の通過点でしかない。「今」への静かな自信に満ち溢れていた。

初めはゲーム感覚でiPadのGarageBandを用い、興味の赴くままに音楽製作ソフトを取り入れながら、トラックメイキングに没頭していったというTakaryu。そもそものフェイバリットであるテイ・トウワをはじめ、ディスクロージャーマデオンポーター・ロビンソンといった少しだけ上の世代の気鋭アクトにシンパシーを抱き、また父親が好んで聴いていたというAORやクラブジャズのサウンドマナーにも、幼い頃から自然に聴き馴染んでいたという(良質なダンストラックだけには留まらない、彼の大人びたソングライティングはその辺りに由来しているようだ)。

新作でも数多くの優れたゲストボーカリストを招いた作風にはなっているが、結果的に自ら歌入れすることになったという“Null (version)”からも明らかなように、Takaryuは「ミュージシャンとして、自分の声を持っているか否か」という部分に拘る。声/言葉というツールを用いて音楽を広く共有するポップソングの意義と、より自由な音楽の場を求めてきたダンスミュージックの意義を、切実なレベルで融合させた思想の持ち主なのである。

情報の氾濫に溺れ、あらゆる事象がスクリーン上で平坦に見えてしまうような時代を穿つTakaryuの歌詞は、鋭利でナイーブだ。ただし、そんな中でも思考と感情を確かなメロディに乗せて抑揚させ、豊かなダンスグルーヴで躍動させようとするしなやかな音楽の輪郭にこそ、彼の発する真の「言葉」があるのだと思える。まるで、この音こそが彼自身にとっての生きる道標であり、希望なのだというふうに。

フューチャーハウス/フューチャーベースといったトレンドからさっさと脱却し、よりジャジーにソウルフルに、アナログで生々しい質感を伴って構築された『Resources』。YouTubeを通してありとあらゆる時代の音楽にアクセスしてきたというTakaryuは、その若い感受性でスポンジのように自己表現の手がかりを吸収し、独創的なアウトプットへと繋げている。その若さゆえライブの機会はなかなか得られなかったが(昨年末のCOUNTDOWN JAPAN 17/18出演を見届けた人はラッキーだった)、要望の声を大きくすることで、今後は彼の表現を生で体感する場がきっと増えてくるはずだ。(小池宏和)