Takaryu/BATICA

Takaryu/BATICA - All photo by ASUKA ICHIKAWAAll photo by ASUKA ICHIKAWA

●セットリスト
1. intro (from "Resources")
2. Left-field (ft. 綿めぐみ)
3. Null
4. Rain
5. Refusal
6. Ambivalence
7. Lost the Manual 〜 session
8. DJ mix
9. Flume - Never Be Like You (Takaryu Redo)
10. F.w.p. (ft. EVO+)
11. Save (ft. 初音ミク)
12. Cave (ft. 宮原永海)
13. Reminisce Over You (ft. 宮原永海)
14. Suicide (新曲・仮タイトル)
15. Suburbia
16. Resource (ft. Annabel) [extended VIP]
(アンコール)
En. Software (ft. 初音ミク) [extended VIP]



4月にアルバム『Resources』をリリースした十代のトラックメイカー/プロデューサー=Takaryu。今回レポートをお届けするのは新作のリリースパーティであり、Takaryuにとって記念すべき初のワンマンライブの模様だ。会場は恵比寿BATICA。アーティストとダイレクトに向き合い、またTakaryuの繊細にしてパワフルなレンジを誇るサウンドを浴びるにも、絶好と言える環境のベニューである。

Takaryu/BATICA

パッドをスティックで打ち鳴らし、また自ら抱えたベースでフレーズを奏で、音を塗り重ねながら“Left-field (ft. 綿めぐみ)”の有機的なガラージサウンドを構築してゆくTakaryu。演奏しながら「今日はありがとうございます。最後までゆっくり楽しんでいってください」と満場のオーディエンスに挨拶し、自らのボーカルパートを加えてゆく。アナログな質感への拘りを盛り込んだMVを背景に投射しながらの“Null”は、空虚で物憂い心持ちを抱きながらも、それを明瞭に伝える彼自身のボーカルが、以前よりも堂々とした表現者の輪郭を浮かび上がらせていた。

フロアから見えるように傾斜をつけて設置したLAUNCHPADのプレイも、フランスのマデオンのようにライブ映えしている。雨垂れの音を織り込んだ“Rain”から、高速ボーカルチョップ+チップチューン風のシンセサウンドを用いた“Refusal”と、『Resources』収録曲は以前よりもずっとサンプリングアートとしての深みを増した。高度でありながらポップさを保ったコード進行のソングライティングといい、若さを忘れさせるほど豊穣な音楽の時間が育まれている。

Takaryu/BATICA

自ら音を楽しみ尽くすように手を打ち鳴らし、跳ね回るTakaryuは、「ここからは、ゆっくり踊れるようにスペシャルミックスを用意しましたので、皆さん楽しんでいってください」と呼びかけ、自身のトラックを用いたマッシュアップや、世界各地のプロデューサーによるディープハウス、ミニマル寄りのテックハウスなどを華麗にミックスしてゆく。ヘッドフォンで音をモニタリングしていないので、ビートが切り替わるときに一瞬まごつくような生々しいライブ感も見せるのだが、その辺りも人肌のマナーを感じさせてナイスである。昨年、SoundCloud上で公開されたフルーム“Never Be Like You (feat. Kai)”のリミックスから、ジャジーなフューチャーベース“F.w.p. (ft. EVO+)”へと連なる滑らかな流れが美しい。

Takaryu/BATICA

前作『MANUAL』収録曲の“Save (ft. 初音ミク)”の後には、音源でもフィーチャーされていたシンガーの宮原永海をスペシャルゲストとしてステージに招き入れる。おずおずと語るTakaryuとは対照的に、会うたびにTakaryuの背が伸びていたというエピソードや、トラック・歌詞の印象について、楽しそうに語る宮原である。そして、スロウで柔らかなヒップホップビートを用いた“Cave”やエレクトロなアーバンポップと呼ぶべき“Reminisce Over You”は、サウンドに絡みつく宮原の艶っぽいソウルボーカルが、最上級の恍惚感をもたらしてくれた。

宮原をステージから見送ると「実はですねえ、今日は、僕の誕生日でございます」と照れ臭そうに語り、祝福の喝采の中で19歳になった特別な日のライブを喜ぶTakaryu。この世に生を受けた日に披露される新曲は、生きることの苦悩を赤裸々に歌い、自問自答の時間を描き出すシリアスな楽曲であった。少年時代から彼が抱えてきた生き難さはインタビューなどでも語られていたが、音楽を通して、こんなふうに苦悩を吐き出す健全な機会を自ら掴み取ってきた彼の道のりにこそ、この歌の意味はあるのではないか。

Takaryu/BATICA

ドリーミーなシンセリフに彩られた“Suburbia”を経て、辿り着いた本編最後の曲は“Resource (ft. Annabel) [extended VIP]”。アップリフティングなテックハウスのイントロが加えられたバージョンだ。確かにTakaryuの綴る歌詞は、真っ暗な夜の闇に、道標のない現代の街並みに彷徨う、そんなリリシズムに満ちているかも知れない。しかし、力強くしなやかなこの音楽の推進力と躍動感こそが、彼の魂の真ん中にある希望なのだ、と思えてくる。

Takaryu/BATICA

アンコールの催促に応えると、Takaryuは最後の最後に“Software (ft. 初音ミク) [extended VIP]”を放つ。彼は今も《世界は面白くなるはず/その時までただ待つというの?》という問い掛けの中を生きているのだろうか。「今日は、本当にありがたいと思っています。それでは本当に、またお会いできる日まで。さよなら! バイバイ! アディオス!」と告げて、余韻を残しながらステージを締め括った。次回ライブ予定は、9月11日(火)@渋谷LUSH(イベント出演)。陶酔感をもたらしながら心の琴線に触れる、Takaryuのパフォーマンスに今後も注目してほしい。(小池宏和)

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