6月21日と22日の2日間にわたり、ニュー・アルバム『ザ・ナウ・ナウ』のリリースに先駆けた単独来日公演を開催したゴリラズ。
6月22日には世界初となる『ザ・ナウ・ナウ』全曲再現ライブを行い、2500人規模のZepp DiverCity Tokyoという贅沢な環境にて大きな盛り上がりを見せた。
デーモン・アルバーンへのインタビューは現在発売中の「ロッキング・オン」8月号に掲載中、そしてデーモンとヴィジュアル・アーティストのジェイミー・ヒューレット2人へのインタビューは9月号に掲載予定だが、本記事では来日前に行ったジェイミーへの単独インタビューを独占公開。
若い頃にはルームシェアをしていたほど仲の良い親友同士である、デーモンとジェイミーによって生み出されたゴリラズ。
架空の「バーチャル・バンド」であるゴリラズにとって欠かせない存在であるジェイミーは、本インタビューにて過去作からの変遷を交えながら、『ザ・ナウ・ナウ』に込められたメッセージについて、そして、ゴリラズという「アート・プロジェクト」の意義についてなど、ヴィジュアル・アーティストである自身の目線からゴリラズを語っている。
刑務所に収容されてしまったキャラクター、マードックの代わりとして加入した新メンバーであるエースについてのエピソードも必見な本インタビュー。ぜひ「ロッキング・オン」8月号、9月号と合わせてお楽しみください。
インタビュー:粉川しの
通訳:中村明子
●前作『ヒューマンズ』からわずか1年2ヶ月で、ニュー・アルバムを本当に聴けることになるとは思っていませんでした(あなたは「2018年に新作を出す予定」と言っていましたが、予定は未定で延期になる場合が多いので半信半疑でした……)。この『ザ・ナウ・ナウ』にはあなたとデーモンのどんなモードが凝縮されていると言えますか?
そりゃ……色々だよ。ひとつには絞れないな。まずこの『ザ・ナウ・ナウ』で僕たちは元々の、ゴリラズの1stアルバムを作った時のやり方に立ち返ろうというのがあった。あるいは『ディーモン・デイズ』の頃でもいいんだけど。つまり速く作るっていう。とにかくまずは作ってみようという感じだったんだ。
『ヒューマンズ』が時間かかったんだよね……3年くらいかかったんじゃないかな。まあそれもよかったんだけど、コラボレーターがたくさんいて、複雑だったんだ。だから今回は何というか……速攻で作りたかったんだよ。ブレインストーミングしてアイデアを出して、そのアイデアがいいと思っても、あまりに時間をかけすぎると、考えすぎてしまったりするし……しかも結局は最初のアイデアに戻ってきたりさ。
だから今回デーモンがツアー中に録音した曲があって、2月にスタジオに入って、1ヶ月間でアルバムを作ったんだ。というか、別に作り方を決めていたわけじゃないけどね。アイデアが浮かんで、とにかく作ろう、1年丸々かけて作るんじゃなくて、とにかくもう作っちゃおうよっていう。そういう感じで作れてすごくよかったよ。もっと若かった頃に、少し時間があるからその間に作ろうって言って作ってたのと似てる。
音楽にビジュアルをつけるのは、いい曲であればすごく楽しいんだよ。実はいい曲にダメなビデオを作るのはかなり難しいことなんだ(笑)
●『ヒューマンズ』は今まさに目の前で起きている政治や社会の危機的状況に怒り、警鐘を鳴らすダークな側面もあったアルバムですが、この『ザ・ナウ・ナウ』はもっとポジティブでカラフルな作品であり、新たな始まりを印象付けるものになっていると思いますが、実際はいかがでしょう?
「基本的には、今作も引き続き世界のマッドネスに対してのコメントだね。特にこの2年で世界は本当に狂ってしまったから。政治の世界で起こってることも奇妙すぎる。
『ヒューマンズ』がそういったことに対する、あからさまではない批評だった一方で、『ザ・ナウ・ナウ』でははっきりと、今このクソみたいな状況があるから何とかしなきゃなんない、だからとりあえずポジティブになろうって言ってるんだよ。今起こってることに対してネガティブになって落ち込んで怒ってムカついてても、どこかの時点で、目を覚まして『何とかしなきゃダメだ』ってなる必要があるしね。
自分のために、自分なりの方法で、何でもいいから何かしよう、今あるものの中にポジティブな部分を見つけ出そうっていう。いやもちろん誰も今の世界の有り様に満足はしてないんだけどね。今ホワイトハウスに誰がいるかってことにも満足してないし、何もかもが、僕らが望むものとは反してるんだけど、でも現状そうなってるんだから、向き合うしかないわけだよ。
つまり『ザ・ナウ・ナウ』はこれが今なんだ、今この瞬間こうなんだ。昨日のことを心配しても仕方ない、明日のこともいい、今この時のことを考えるんだっていう。結局は、世界的に有名なアニメ・ポップ・バンドとして音楽とビデオを作っていて、世界で起こっていることに無関心でいるなんて不可能なんだよ。僕らはこれまでもずっと政治的だったしさ。
だからって別に政治を説いて回ってるわけじゃないけどね。ただ今起こってることに関する自分達の意見を言ってるだけなんだ。それは9.11のあとに出した『ディーモン・デイズ』でもそうだった。9.11に続くすべてのことがダークで恐ろしくて捻れていたからさ。
『プラスティック・ビーチ』は環境汚染、地球が今どうなってるか、人間が地球に何をしているのかがテーマだったし、『ヒューマンズ』は人間らしさを取り戻すというか、ちゃんと人間らしくなって、お互いを助け合って憎み合うのを止めるっていうことだった。そして『ザ・ナウ・ナウ』は、今に集中して、今と向き合って、未来に向けて何か生み出そうっていうことかな。
ただし僕達はビリー・ブラッグのようなタイプの政治的バンドではなくて、自分達の視点や政治的な意見を歌詞やビジュアルや音楽に織り交ぜて、興味がある人はどうぞ発見してくださいっていうことだけどね。興味がない人は単純に曲とアニメーションを楽しんでくれればいいんだ」
●本作においてあなたの表現を駆り立てたものとは? デーモンのサウンドやリリックの方向性に対し、あなたのアートはどう呼応したと言えますか? また、あなたとデーモンのゴリラズおける双方向のクリエイションにおいて、前作と比較して変化した点はありますか?
「変化なし。そこはいつも通り。彼の音楽をより良く聴こえるようにするのが僕の仕事だ……って冗談だけど(笑)。ええとまあだから、スタジオに入って数週間、デーモンが音楽を作ってる間に話しながら、ストーリーラインやキャラクターやプロットやビデオを考えて、集中的にアイデア出し、クリエイティブなセッションをしたんだ。
スタジオには他にも、レミ・カバカもいて、彼は最も古いゴリラズのメンバーの1人で、1stアルバムの時から一緒にやってるけど、今回も制作過程にかなり関わっていて、デーモンと共にプロデュースもしてる。
他にも色々いたし、クリエイティブな人達による一大コラボレーションという感じだったね。僕の仕事は音楽にビジュアルをつけることで、キャラクターとストーリーに関しては僕が責任を持っている。音楽にビジュアルをつけるのは、いい曲であればすごく楽しいんだよ。実はいい曲にダメなビデオを作るのはかなり難しいことなんだ(笑)」
●現段階で本作におけるビジュアル・アートはほとんど明らかになっていませんが、あなたは新作でアニメーションの新展開を考えていると言っていましたよね。実際にそれはどんなコンセプトのものになっていますか?
「新展開は毎回そうだよ。音楽的にも視覚的にもね。そうしないと自分達が面白くないからさ。もしデーモンが1stアルバムと同じような音楽を作り続けて僕が同じようなビジュアルを作り続けてたら、ゴリラズはここまで人気が出てないと思うし、僕らも同じことをやり続けて退屈して疲れ切ってただろうしね。
色々実験できる仕事で本当によかったと思う。もし毎日同じことをやらなきゃいけないとしたら発狂してると思う。常に変わり続けて前に進む必要があるんだ。だからビジュアル的にも音楽的にも毎回新展開だよ」
世界は魔法を失ってしまった。僕達の仕事は魔法を蘇らせることなんだ。
●新キャラクターの「エース」が登場するそうですが、彼はどんな人物なんですか?
「すごーく悪いやつ。マードックの友達なんだよ。マードックは刑務所に入ってて、ゴリラズがどうなってるかちょっと心配してるわけ。2Dが自分のアルバム作ったりしてるしさ。だからエースに自分の代わりにバンドに入って見張っとくように頼んだんだ。つまり半分マードックのスパイみたいなもんなんだけど、代役としてもかなり優秀だよ」
●オール・ポイント・イーストで話題になったポスターに書かれていた「NO MORE UNICORNS ANYMORE」の意味とは? 新作とどうリンクするメッセージなんですか?
「あのスローガンには全部、何らかの意味がある。NO MORE UNICORNS ANYMOREについて言うと、ユニコーンってマジカルな神話上の生き物だよね。希望を運んでくるような存在でさ。でもノー・モア・ユニコーン、つまり世界は魔法を失ってしまったということ。まあ、あくまで今のところはね。それで僕達の仕事は魔法を蘇らせることなんだ」
●ゴリラズというバーチャル覆面プロジェクトの意義や役割は、時代とともにどんどん変化していきましたよね。時代を先取りしてきたアニメ・バンドというゴリラズのフォーマットは2010年代後半の今、むしろ驚くほど時代にフィットしています。
「そう、時代が追いついたんだ(笑)」
残念なことに、いいバンドがいた時代はある意味過ぎ去ってしまったよね。だからこそ僕らはあのバンドのメンバー達を発明したわけ(笑)。その方が面白いからさ。
●まさに。しかも現実的で直接的なメッセージを投げかける上でむしろ強力な武器になっているとも思います。その変化は歓迎すべきものですか? また、アート・プロジェクトとしてのゴリラズの意義は、あなたの中で変化しましたか?
「元々の目的は、アーティストとしての自分達がクリエイティブに実験できる場を作ることだったわけだよ。今もその目的は変わってないね。実験すること、コラボレートすることは、止められないから。このバンドは常にテクノロジーと共に歩んできて、人からは最先端とか言われるけど、でも別にそこは興味ないというか、別に最先端のテクノロジーを駆使するとかはどうでもよくってさ。
むしろちょっと後戻りしてレトロ、アナログにしてみることに興味があるな。最先端のテクノロジーを使ったからと言ってより優れたアーティストになれるわけじゃないからさ。結局はいい曲を書いていいビデオを作って面白いバンドであることの方が大事だからね。
残念なことに、いいバンドがいた時代……たとえばバンドに4人メンバーがいたら4人とも面白くてずけずけ物を言ってカリスマ性があってという、そういう時代はある意味過ぎ去ってしまったよね。だからこそ僕らはあのバンドのメンバー達を発明したわけ(笑)。その方が面白いからさ」
デーモン・アルバーンとジェイミー・ヒューレットへのインタビューは現在発売中の『ロッキング・オン』8月号に掲載中です。
ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。