星野源“アイデア”に張り巡らされた、数々の音楽的ギミックについて

星野源“アイデア”に張り巡らされた、数々の音楽的ギミックについて - 『アイデア』『アイデア』
楽曲の衝撃的な展開を完璧に可視化したMVが、既に海外でも大きな話題となり(https://rockinon.com/news/detail/179588)、当然のようにオリコン週間デジタルシングルチャートの1位を攫った星野源“アイデア”。遡れば今春、NHK連続テレビ小説『半分、青い。』のストーリーに寄り添った1コーラス目の歌詞が胸を震わせ、そしてフル尺のMV公開と配信リリースによって話題性を爆発させたことからも、この曲に盛り込まれた膨大なアイデアの凄さが分かる。これだけ情報の流れが早い時代に、“アイデア”は情報のスピードを追い越さんばかりの勢いで、底知れぬアイデアの力を見せつけてきたわけだ。

“アイデア”1コーラス目の演奏は、タイトなラン&ストップを決めるドラムスや、巧みなフレーズでアンサンブルの中を踊るギターといったバンドメンバーの高度な技術が光る部分もあるけれど、全体的には華やかなストリングスアレンジやマリンバの音色といった、従来の星野源節=イエローミュージックのイメージを意図的に打ち出している。『星野源のオールナイトニッポン』でも語られていたように、これは当初TVサイズとして制作された(こちらの記事参照→https://rockinon.com/news/detail/179517)バージョンである。ちなみに、ここで語られている「エキゾチカ」の提唱者マーティン・デニーは、1959年に“Sake Rock”という楽曲を発表している。星野源が所属していたSAKEROCKのバンド名の由来だ。

さて、フルバージョンの“アイデア”が制作される過程で溢れた「全然ワクワクしない」という思いが、STUTSによるMPC演奏のビートミュージックという発想の呼び水となったそうだ。確かに、2コーラス目に入った途端、MVも歌詞も雰囲気をガラリと変容させる。シングル『ドラえもん』収録の“The Shower”(STUTSが参加)を聴いていなければ尚更びっくりしたかも知れない。でも、本当に“アイデア”の2コーラス目は、それほど大きな違和感をリスナーに抱かせるだろうか。僕がもっとも驚かされたのはむしろ、「全然違っているのに、繋がっている」事実のほうだ。それこそ昼と夜が、自然の摂理として繋がっているのと同じように。

『ROCKIN'ON JAPAN』最新号(2018年10月号)のインタビューで星野源は、彼自身にある種の救済をもたらしてくれたビートミュージックの存在を、いくつかのアーティストを例に挙げながら語っている。“アイデア”の2コーラス目に触れると、星野源が挙げていたアーティスト以外にも、例えばジ・インターネットのシンガーとしても知られるLAのシド(Syd)や、南アフリカ出身でシドニー在住のジョンティ(Jonti)、シカゴのラッパー/プロデューサーであるサバ(Saba)、ブルックリン在住の優れたDIYシンガーであるローズハルト(Rosehardt)らといった、非常に洗練されたビートをもとに斬新なポップを構築するアーティストたちのサウンドが連想される。


星野源は、自身の音楽的ルーツをもとに、イエローミュージックという表現基盤を作り上げた。“アイデア”の1コーラス目はその到達点と言えるものである。しかし、現在の彼の表現欲求は、自ら規定したイエローミュージックの枠組みを不自由に感じ、そこからハミ出してしまうものだった。世界基準の最新ポップにシンパシーを抱き、“アイデア”2コーラス目以降の大胆な展開が構想されることになる。ここには、時代や文化を背景にした音楽のギャップが確かに表れている。あなたも、CDショップの店頭で、或いは音楽配信サービスのアプリ上で、細かく分類された音楽のジャンルを目の当たりにすることはあるだろう。

“アイデア”の2コーラス目は、そんなモヤッとした気持ちを見透かしたように響いていた。ガラリと雰囲気を変えるのに、バンド演奏から星野源のフォーキーな弾き語りの間を、なんとも華麗に滑らかに繋いでいるのだ。この曲はまるで、理想的な秩序をもった世界のようだ。星野源は、自身の表現欲求を肯定し解放するのと同時に、なかなか融和することのない時代や文化のギャップを肯定し、解放してしまった。皮膚で遮断されているからこそ感じられる感触や温度があるように、「全然違っているのに、繋がっている」感動が、そこには立ち上っている。

“アイデア”はすごい曲だ。でも、まだ気は抜けない。我々は、《夫婦を超えてゆけ/二人を超えてゆけ/一人を超えてゆけ》と歌われた“恋”が、『逃げ恥』という傑作ドラマの最終回で最も力強く輝いたことを知っている。『映画ドラえもん のび太の宝島』のクライマックスで、完璧な響き方をした“ここにいないあなたへ”を知っている。9月末にいよいよ物語が完結する『半分、青い。』で、“アイデア”という楽曲は秘められた真の力を発揮するはずだ。これからの約1ヶ月、心してかからなければならない。そうそう何度も泣かされてたまるかよ、星野源。(小池宏和)
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