誰もが驚きと喜びを禁じ得ない、コラボレーションの醍醐味そのもののような共演。“獣ゆく細道”で実現した椎名林檎と宮本浩次のコラボはまさに、2018年という時代に「奮い立つ業と魂こそが音楽の核である」という闘争宣言を改めて高く掲げるような、どこまでも凄絶で麗しい名曲だ。
アレンジャーに笹路正徳を迎え、ゴージャスかつ妖艶なビッグバンドジャズの音世界を繰り広げてみせた“獣ゆく細道”。言うまでもなく、コラボを楽しむポイントは「誰と」、「どのように」共演したか、にあるのだが、「誰と」の時点であっさりと聴く者すべてを歓喜のレッドゾーンへと叩き込んだこの曲で何より驚愕し感激させられるのは、その「どのように」の部分――最大限の敬意と畏怖をもって椎名が「獣」と喩えた稀代の表現者=宮本との切迫した歌の共鳴ぶりにおいてこそだ。
コラボ相手発表前のコメントでも、椎名は「こうしてアイデンティティを持ち始めた曲が、或る詩人の筆致を求めていることに、私はじき気付きました。その人物がこれまで発して来たメッセージを、この曲の中で一度、私なりに要約できないだろうかと考えたのです。そのうえ、一緒に唄ってもらえたらどんなによいだろう、とも」(一部抜粋)と、宮本との共演への希求が今作の大きなエネルギーになっていることを綴っていた。
《この世は無常 皆んな分つてゐるのさ》と冒頭から熾烈な気迫とともに突きつけられる言葉も、《飼馴らしてゐるやうで飼殺してゐるんぢやあないか/自分自身の才能を》というラインも含め、宮本が絶唱する椎名の歌詞のひとつひとつが、宮本自身の言葉の如く響いてくる――。宮本が椎名の壮麗な音楽世界を、椎名が宮本という圧倒的な存在を、真っ向から認め合いながら全身全霊を傾けて謳歌していることが、スリリングに絡み合うふたりの歌声からはもちろん、児玉裕一が映像監督を務めたミュージックビデオからもダイレクトに伝わってくる。
児玉が同曲MVに寄せた「自分自身と孤独に闘い続ける獣。その生き様を垣間見てしまったときの瞬間が、ヤバさが、しっかりとこの映像に刻まれたと思います」というコメントの通り、「己と対峙する魂」をこの上なく高精度に映像化したようなこの映像は、椎名林檎/宮本浩次という孤高の「獣」の在り方をくっきりと映し出したものだ。
10月2日には配信もスタートしている“獣ゆく細道”。《誰も通れぬ程狭き道をゆけ》――ラストでひときわ鮮烈に歌い上げられるこの言葉は、僕らの抑え難き衝動の在り処を明確に指し示してくれる。2018年秋、夜毎に全国でこの曲が流れることを、心から嬉しく思う。(高橋智樹)