新海誠監督映画と作品を彩る名曲の切っても切れない結びつき――初期作品から『秒速~』『君の名は。』『天気の子』まで

新海誠監督映画と作品を彩る名曲の切っても切れない結びつき――初期作品から『秒速~』『君の名は。』『天気の子』まで - 『天気の子』©2019「天気の子」製作委員会『天気の子』©2019「天気の子」製作委員会
日本のアニメーション監督・新海誠。映画『君の名は。』(2016年)の大ヒット以前にも、『秒速5センチメートル』(2007年)、『言の葉の庭』(2013年)などで高い評価を受けてきた彼の作品を語るには、その映像を彩る音楽の存在も欠かすことができない。そこでこの記事では、新海作品における映像と音楽の関係性を紐解きながら、彼の提示する映画音楽の在り方、その変遷を振り返っていきたい。


初期作品を支えた天門の音楽、受け継がれる系譜

これまで数多くの新海作品の音楽を担当してきた天門。新海と天門は元々ゲーム会社・日本ファルコムの社員で、新海が自主制作短編アニメ『彼女と彼女の猫』(1999年)の音楽を天門に依頼したところから両者のタッグが始まった。天門の作る曲はピアノがメインで使用されていて、繊細なメロディラインが特徴的。新海による美しい風景描写、登場人物の感情の機微と共鳴するような音楽だ。初期の新海作品は、登場人物たちの多くが「離別」を経験する、どちらかというとバッドエンドのものが多い。天門の音楽には、胸が締め付けられるような感情を洗い流すやさしさがあり、その音楽の存在によって初めて物語が報われる感じがあった。現状、『星を追う子ども』(2011年)が新海と天門のタッグによる最後の作品。しかし、KASHIWA Daisukeが音楽を担当した『言の葉の庭』ではほとんどの曲がピアノのみで演奏されており、系譜のようなものが感じられた。

『秒速5センチメートル』と私たちの生活を繋いだ山崎まさよしの名曲

新海誠監督映画と作品を彩る名曲の切っても切れない結びつき――初期作品から『秒速~』『君の名は。』『天気の子』まで - 『秒速5センチメートル』Ⓒ Makoto Shinkai / CoMix Wave Films『秒速5センチメートル』Ⓒ Makoto Shinkai / CoMix Wave Films

『秒速5センチメートル』の 主題歌“One more time, One more chance”は元々、映画『月とキャベツ』の主題歌としてロングヒットを記録した山崎まさよし初期の代表曲。リリースから10年を経ての起用となった。新海が「誰もが知っていて、現代を生きる人々にとって普遍性のある楽曲」というイメージにこだわった結果、この曲に行き着いたのだという。“One more time, One more chance”は終盤で流れるのだが、よく聴くと、その他の場面にもこの曲の旋律が引用されている。劇中のインストトラックの中に主題歌の旋律を取り入れるアプローチは、これまでの作品でも天門が行ってきたものだ。

『言の葉の庭』に見られるMV的手法、秦 基博との幸福な関係

新海誠監督映画と作品を彩る名曲の切っても切れない結びつき――初期作品から『秒速~』『君の名は。』『天気の子』まで - 『言の葉の庭』Ⓒ Makoto Shinkai / CoMix Wave Films『言の葉の庭』Ⓒ Makoto Shinkai / CoMix Wave Films

『言の葉の庭』のエンディングテーマは、秦 基博による大江千里のカバー“Rain”。 “Rain”は本編終盤からエンドロールにかけて使用されている。主人公2人の後日談的な様子を捉えつつ、曲のテンポに合わせたタイミングで場面を切り替える手法はミュージックビデオで用いられるものに近く、長編映画でこのような手法が用いられるのは画期的であった。また、劇中には登場しないが、秦はイメージソングとして“言ノ葉”を書き下ろし、そのMVを新海が手掛けている。優れたクリエイターとは、自分以外のクリエイターにも新しいインスピレーションを与えてしまうもの。新海が音楽家との出会いに恵まれている理由はそういうところにもあるかもしれない。

RADWIMPSとの出会い、『君の名は。』で提示された映画音楽の新しい在り方

新海誠監督映画と作品を彩る名曲の切っても切れない結びつき――初期作品から『秒速~』『君の名は。』『天気の子』まで - 『東宝配給/©2016「君の名は。」製作委員会』『東宝配給/©2016「君の名は。」製作委員会』

『君の名は。』の音楽はRADWIMPSが担当。新海が、プロデューサーの川村元気に好きなアーティストを訊かれた際に(映画に合うかどうかを考えずに)ラッドの名を挙げたことが起用のきっかけだった。新海はラッドの好きなところについて、「小さな感情と大きな現象、たとえば個人の恋心と宇宙がまっすぐにつながっていくような感じとか」と語っているが、これはそのまま『君の名は。』を通じて新海が行ったことでもあるように思える。そう考えると、両者の出会いは必然だったのかもしれない。

これまでの作品にも宇宙のモチーフは登場していたものの、ここまで規模の大きな物語は今回が初めてだろう。『君の名は。』では、ピアノやストリングスだけでなく、アコースティックギター、ハープ、バンドサウンドが順に主役をとり、世界が広がったことを体現。特に、主人公2人が「入れ替わってる~⁉」と声を合わせてから“前前前世”が始まるシーンはあまりにも有名だ。疾走感あるバンドサウンドが物語を一層加速させるようで、当時劇場でワクワクした人も多かったのではないだろうか。また、前項で取り上げたMV的手法を前半に行ってしまうのも新しかった。

新海誠監督映画と作品を彩る名曲の切っても切れない結びつき――初期作品から『秒速~』『君の名は。』『天気の子』まで - 『東宝配給/©2016「君の名は。」製作委員会』『東宝配給/©2016「君の名は。」製作委員会』

ラッドは「曲を聴いた上で作りたいシーンがいくつかある」という新海の要望を受けて制作初期から作品に携わったらしく、実際、音楽のために台詞を削ったり尺を調整した場面があったとのこと。全体として『君の名は。』のアプローチからは、映画音楽とは映像の引き立て役ではなく、映像と同じくらい大事であり、主張を持つべきものなのだという考えを読み取ることができる。

黄金タッグ再び、『天気の子』にかける期待

新海誠監督映画と作品を彩る名曲の切っても切れない結びつき――初期作品から『秒速~』『君の名は。』『天気の子』まで - 『天気の子』©2019「天気の子」製作委員会『天気の子』©2019「天気の子」製作委員会

そして7月19日(金)に公開される『天気の子』では、新海とラッドが再びタッグを組む。予告編映像から確認できる曲は、“愛にできることはまだあるかい”と“グランドエスケープ (Movie edit) feat.三浦透子”。前者は野田洋次郎が歌うピアノバラードで、物語に通ずる大切なメッセージが託されている予感。後者は明らかにこれまでの新海作品にはなかったタイプの曲。これまではピアノやストリングスの音色によって、雨の雫や太陽の光などのきらめきが表現されてきた。一方今回は、電子音やハンドクラップ、そして新海が「世界そのものの響きのような声」と評価した三浦透子のボーカルによって、もっと超常的な輝きが表現されているような印象を受ける。

映画音楽の在り方を模索する上で生まれた過渡期的な作品であった『君の名は。』から3年。『天気の子』では映像と音楽がどのように交わるのだろうか。劇場で体感できる日を楽しみにしていたい。(蜂須賀ちなみ)
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