『Mステ』の演奏前のトークで山内総一郎(Vo・G)は、志村が残したノートに「『ミュージックステーション』に出たい」と書いてあったと明かした。CMを挟み、郷愁のメロディがじんわりと広がり、胸をしめつけるイントロが流れる。山内が伸びやかに歌い、途中で志村の映像が流れたと思ったら、歌が志村の声に切り替わる。そして、《僕はそっと》の後の《歩き出して》で、山内の歌が重なる──言わば、変則的なデュエットのような形で“若者のすべて”が披露されたのだ。バンドの創始者でありボーカルでありメインコンポーザーである中心人物を突然失ってしまってもフジファブリックが歩みを止めなかったのは、「フジファブリックというバンドが好きだから無くしたくなかった」というシンプル極まりない理由からである。念願であった初の『Mステ』の選曲も、そのフジファブリックの良さがふんだんに込められた名曲を、それを作った志村正彦という人とともに、もっと多くの人に知ってもらいたい、というシンプルな思いからであろう。
志村は“若者のすべて”リリース時のインタビューで、「この曲は進みだしてしまわなきゃいけないっていう曲です」と語っていた。デビューから15周年、フジファブリックはまだまだ進んでいく──とてつもないセンチメンタルと同時に、その確信を抱いた『Mステ』となった。(小松香里)