さユりのニューシングル表題曲“航海の唄”。昨年12月のMY FIRST STORYとのコラボシングル『レイメイ』を挟みつつも、前作『月と花束』以来約1年9ヶ月ぶりという、メジャーデビュー以降では最も長いスパンを置いてのリリースとなった今作はしかし、新たな音楽の地平に立っている彼女の現在地を明確に伝えている。
そのことは、リリースと同時に公開されたミュージックビデオでの彼女の姿――デビュー以降コスチュームとして身にまとってきたポンチョを脱ぎ捨て、白を基調とした新たな装いで《強さは要らない 何も持って無くていい 信じるそれだけでいい》と決然と歌う佇まいにも象徴されている。
デビューシングル曲“ミカヅキ”の《欠けた翼で飛ぶよ 醜い星の子ミカヅキ》のフレーズに象徴される通り、アコギをかき鳴らし、鮮烈な歌声を響かせながらシーンに躍り出たさユりが一心に掲げていたのは、「満月=絶対的なるもの」に程遠い自分自身の葛藤と焦燥感そのものだった。
「欠落」へのネガティビティの表明によって逆説的に己の存在証明を今この時代に刻み込む、という刹那的な切迫した感情が、その歌と楽曲に途方もないエネルギーと加速感をもたらしてきた。
だが、さユりが今回“航海の唄”で提示しているのは、《足りないものは足りないままで構わないよ、今から探しにいこう》と「欠落」をあるがままに受け入れる自分自身の姿であり、自分の歌を「みんなのうた」にすることで聴く者すべてに前進を呼びかけようとする意志だ。
この約1年9ヶ月の間、『月と花束』の「その先」を描くために切磋琢磨と試行錯誤を繰り返していたことを、11月30日(土)発売の『ROCKIN’ON JAPAN』2020年1月号掲載のロングインタビューの中でさユりは明かしている。
自らの魂の渾身の「表明」が、音源/ライブを通して多くのリスナーと共鳴する状況の中、彼女は自らの歌をより雄大なスケール感とダイナミズムを備えた「表現」へとアップグレードすることによって、時代丸ごと前へ先へとドライブさせようとしている。《強さは要らない》というリリックは、真の「強さ」が宿るからこそ意味を持ち得るものだ――ということを、“航海の唄”のダイレクトな歌の訴求力が何より雄弁に物語っている。
『About a Voyage / 航海の唄』World Edition EPでの世界デビューも先日発表されたさユり。『月と花束』から『航海の唄』までの真摯な心の旅路は、『ROCKIN’ON JAPAN』2020年1月号ロングインタビューの中でさユり自身の言葉で詳細に語られているので、ぜひご一読を。(高橋智樹)
TVアニメ『僕のヒーローアカデミア』第4期エンディングテーマとしてオンエア中の、酸欠少女さユりがポンチョを脱ぎ広い世界に向かって踏み出した“航海の唄”での新しい一歩について
2019.11.28 12:30