サイダーガールの音楽に宿る爽快感と衝動の交錯は、彼らの標榜する「炭酸系サウンド」という言葉に相応しい。
サイダーガールは動画サイトを中心に活動していたYurin(Vo・G)、VOCALOIDクリエイターとして活動していた知(G)とフジムラ(B)で2014年5月に結成。ソングライターとしてのキャリアを持つ者同士がひとつのバンドで人生をともにすることはとても稀有だ。言い換えれば、互いの音楽に対して信頼と尊敬があるということだろう。
結成から約2ヶ月で初ライブを行い、2015年6月に初作品『サイダーのしくみ』を会場限定でリリース。ポップという言葉で片づけられないエッジーでエモーショナルなギターロックサウンド、オルタナと言ってしまうにはあまりにも甘酸っぱくドリーミンな空気感は、メンバー個々の音楽の世界をより豊かに、繊細に響かせていった。
初ライブからちょうど3年後の2017年7月26日、シングル『エバーグリーン』でメジャーデビュー。その後は映画やドラマの主題歌を担当するなど、より広く注目を集めていく。2018年秋にリリースしたメジャー2ndフルアルバム『SODA POP FANCLUB 2』は炭酸系サウンドを基盤にしつつも、メンバー個々の人間性や心情と密接なソングライティングとサウンドの作品に。パンキッシュな面やポップソングとしての妙はもちろん、真摯なシリアスさなど、硬派で重みのあるアプローチが加わり、バンドの深化を感じさせた。
同作のリリースツアーのファイナルである2019年3月のZepp DiverCity(TOKYO)公演が、今でもとても印象に残っている。作風も相まってか、前半はじっくり曲の良さを生かしたステージを繰り広げていたが、機材トラブルとそれをカバーするための即興アコースティック演奏を経たことで、演奏に彼らの人間味や情熱が通い出していった。終盤ではYurinが衝動的に人生初のダイブを捧げる。約2時間の間にバンドが新しい世界へと歩み出しているのが見えた。
だからこそ最新作である3rdフルアルバム『SODA POP FANCLUB 3』が、深い青空の下で、それ以上に晴れやかな表情で地を蹴り駆け抜けるようにエネルギッシュな作品になったのも腑に落ちる。過去最高に振り切れている、つまりより自由なサウンドメイクが実現した。
“ばかやろう”は胸をしめつけるセンチメンタルなコード感を軽快でユニークなビートやフレーズで表現し、ドラマチックでスピード感のあるピアノと骨太のバンドサウンドの交錯が美しい“アンブレラ”も新機軸。“クライベイビー”は清々しいホーンセクションやエネルギッシュなドラムがメンバー3人の歌や音色の発射台になるようで、チームで作り出す逞しさが眩しい。
Yurinのコミカルな皮肉が随所にちりばめられた“週刊少年ゾンビ”、フジムラのチャレンジ精神がバンドに新たな焦燥感の解釈とうねりを生み出した異端ダンスロック“フューリー”という冒険心溢れる楽曲が成立するのも、知が作るこれぞサイダーガールとも言うべきポップなギターロック/オルタナ感のある“飛行船”や楽器のフレーズ一つひとつが丁寧に絡み合うサウンドのうえで広い愛を歌う“シンクロ”といった地に足のついた楽曲が存在するからだろう。ユニセックスな歌詞の世界観も我々の生活を彩り、ルーティンのなかで燻ぶりがちな心を照らして突き動かしてくれる。
ストレートでソフトかと思いきや、ざらりとした肌触りを持つサイダーガールの音楽には、つねに情熱や反骨精神、天邪鬼な気概も感じられる。でなければ「炭酸系サウンド」という軸を持ったまま、作品のたびに新しい挑戦はできないだろう。これまでの経験を糧にして自分たちの音楽をアップデートした『SODA POP FANCLUB 3』も、彼らの未来を切り拓く作品になることは間違いない。(沖さやこ)
刺激的な清涼感ときらめき、儚さすら感じさせる一瞬の感情の機微と興奮――サイダーガールのニューアルバム『SODA POP FANCLUB 3』が令和の時代に際立っていい風を吹かせる理由
2020.01.15 18:10