メジャーデビュー作『ZOO!!』が完成した今こそとことん説明しよう。ネクライトーキーとはこんなバンドだ!!

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ネクライトーキーの首謀者である朝日(G)は、ご存知のとおり、ボカロP「石風呂」として活動し、並行して「コンテンポラリーな生活」というバンドを組んで活動してきた。ネクライトーキーが当初から石風呂の楽曲をライブで演奏するということをひとつのコンセプトにしており、またそのミニアルバムが石風呂楽曲をカバーした『MEMORIES』だったことからもわかるように、あるいはネクライトーキーのベーシスト藤田がそもそもコンポラのメンバーであり、ドラムのカズマ・タケイもサポートメンバーを務めていたことからもわかるように、この3つのプロジェクトはすべてひとつに繋がっている。というよりもネクライトーキーは、ひとりでボーカロイドを使って曲を作ったり、自ら歌ってバンドをやったりしてきた先で、ついに朝日が見つけた理想の音楽表現の形なのだと、彼らのメジャーデビューアルバム『ZOO!!』を聴いて強く思ったのだ。

例えば、《深夜四時も過ぎる頃に街を歩く化物たち/らりるれろ、出鱈目な言葉を喚いてる/恐ろしくて目を逸らしてる》というネクライトーキー“渋谷ハチ公口前もふもふ動物大行進”と、《夕暮れのJR、さえない僕は歩いてる/前髪がバラバラと散らかるけれど/話も聞かないで/みんなは前を歩いてる/こちらも聞いてやるかと耳を塞ぐ》というコンテンポラリーな生活“死なない声を探す”。

例えば、《しかしあれだ、意外だが/これはこれで落ち着くんだ/僕がここで野垂れ死のうと/誰も見ないから》という“夢みるドブネズミ”と、《例えばここでもし 僕の歌がもし/突然流れ出したとして/この中の何人が足を止めてくれる/考えたくないんだけど》という石風呂“ティーンエイジ・ネクラポップ”。

『ZOO!!』の楽曲に刻まれた言葉や思い、さらにいえば「怨念」みたいなものは、石風呂やコンポラで朝日が書いていたものと驚くほど変わっていない。むしろ、“深夜とコンビニ”や“虫がいる”などには、より一層色濃い絶望と疎外感が滲んでいるようにすら思う。バンドの調子がよくて、お客さんの数が増えて、いよいよメジャーデビューを果たすというこのタイミングでなお、朝日はそういう思いに苛まれ続けているのである。そしてそのことが、『ZOO!!』に決して聴き流せない重みと深みを与えている。タイトルからはふざけて作ったようにしか思えない“ぽんぽこ節”でさえ、実はとことん切なくて寂しい歌なのだ。

ところが。ネガティブで卑屈で切ない負け犬根性をロックの力で逆噴射する、それが朝日という男がずーっとやり続けてきたことだとして、実はネクライトーキーの1stフルアルバム『ONE!』にはその匂いが希薄だった。“明日にだって”あたりには朝日の個人性が強く出ているが、一方で“許せ!服部”や“めっちゃかわいいうた”にはそういう要素はあまりない。それがダメだというのではない。『ONE!』にはバンドのポップな佇まいや、もっさ(Vo・G)のキャラクターが思いっきり発揮されていたし、そのキッチュなつくりが、多くの人がこのバンドの存在に気づくきっかけとなったのは間違いないからだ。というか、少なくとも『ONE!』を聴いた時点での僕は、それこそがネクライトーキーの進む道なんだろうな、と思っていた。

ところがところが、である。ライブを観れば舞台上手で汗まみれになって時折メガネを飛ばしたりしつつ激しくギターを弾く髭面の朝日を目撃することになったし、2枚目となるアルバムは前述のとおり石風呂楽曲をネクライトーキーでやるという、ちょっと変化球っぽいコンセプトの作品となった。そして、あれ?と思っているうちに届いたのが今作『ZOO!!』だ。サウンド的にはこれまで以上にやりたい放題、バンドとしてのグルーヴもがっちりはまっていて、もっさの歌がもつ天性のポップさにはますます磨きがかかっている。つまり『ONE!』から格段の進化を遂げたネクライトーキーとしての王道作。しかしその上で、朝日は堰を切ったようにおのれの鬱々とした心情を吐き出しているのだ。

今作を作るまでの過程でバンドとして強くなり、ぶれない芯のようなものができたことで、朝日もバンドとしてのフォルムを気にするよりも自分を解放することを選べた、ということなのか、あるいは、朝日がやむにやまれず吐き出した思いを受け止めるためにバンドがパワーアップを果たしたのか。卵が先か鶏が先かという話だが、いずれにしても、『ZOO!!』のネクライトーキーはそれまでの彼らとは別物といっていいタフなロックバンドである。もっさ、藤田、タケイ、むーさん(中村郁香/Key)、そして朝日。5人それぞれの個性がぐるぐると混ざり合ったポップなサウンドの上で、朝日はバンドが充実しようがメジャーデビューしようが満たされない思いを書き連ねる。それをもっさがあのポップな声で歌う。するとその「ネクラ」な思いが絶妙にキャッチーな場所にぽとりと落ちる。そうやって出来上がっているのが『ZOO!!』の楽曲たちだ。この上なくにぎやかでカラフルだけど、同時にこの上なくディープ、なのだ。

相変わらず朝日を襲うのは《何もないぜ僕ら》(“深夜とコンビニ”)という焦燥感と無力感だが、一方“夢みるドブネズミ”で、彼は「ネズミ」の言葉として《「誰がどう言えど関係ないさ」/「俺が決めたから関係ない」》と綴っている。あくまでネズミの言うことではあるが、この言葉は結構力強い。やけくそのようでもあるが、これが言えるのは、結局のところ今の状態に自信と手応えを感じているからだろう。ネクライトーキーの最初の完成形、『ZOO!!』。ここから、また物語が始まるのだ。(小川智宏)

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