「音楽と出逢った日」の衝撃が詰まったアニメーション映画『音楽』について


2020年の幕開けとともに公開されたアニメーション映画『音楽』を、皆さんはもう目撃しただろうか? 大橋裕之の漫画を原作に、岩井澤健治監督が「友情と信念と意地」を込め7年半の個人制作を経て完成させた映画、それが『音楽』。実写で撮影した素材をトレースして作画し、アニメに落とし込む「ロトスコープ」という手法を使って制作されており、作画枚数はなんと4万枚超、本編71分間すべて手描きという、途方もない作業から作られている。クライマックスのフェスシーンでは実際にフェスを敢行し、撮影した素材を使っているとのこと。文字通り半端ない信念である。

さて、音楽を描いた名作は数あれど、こんなにも直球なタイトルは史上初ではないだろうか。でも、この映画にタイトルをつけるなら『音楽』でしかない。そういう作品だ。

ストーリーは単純明快で、研二・太田・朝倉のヤンキー3人組(主人公・研二の声を演じるのは坂本慎太郎!)が思いつきで組んだバンド「古武術」を軸に展開する。ユルい間合い、一見してシュールな雰囲気のなか、随所できらめくバンドあるあるにクスリとさせられ、散りばめられた洋楽ジャケットのオマージュにニヤリとさせられるのも楽しい。そしてなにせ映画『音楽』ですから。「音楽」を奏でるシーンのストイックな映像表現は必見。古武術の3人が「せ~の」で音を出したときのあの全能感! 3人が勢いだけで奏でる音楽はただただオルタナティブで、でも謎の説得力があって、めちゃくちゃかっこいい。シンプルかつ独特なキャラクターからは想像もつかない、演奏シーンのパワーがとにかくガツンとくる。

また、物語の中で古武術はフォークソングのトリオ「古美術」と出会うくだりがあるのだが、ヤンキーの古武術と、ザ・文化系の古美術、本来なら交わることのなかった2組が、お互いの演奏を通じて一瞬で通じ合う姿も、ものすごく良かった。「音楽」を知ってしまった者だけが交感できるグルーヴが、この世界には確かに存在するのだ。

そしていちばんの見どころは前述したクライマックスのフェスシーンだろう。予想外の展開を見せる演奏はもちろんのこと、ギターを弾く鮮やかな指の運び、乱れる髪の流れ、自然と踊りだす観客の身体……そのすべてが生々しく、熱い。これは生身の人間を手描きでなぞる、というロトスコープでしか表現できない「音楽の躍動」なのではないだろうか。気づいたら引き込まれ、あっという間にエンドロールが流れていた。ライブハウスで、フェスのステージで、「なんかよくわかんないけど今、とんでもないことが起きている。一瞬も集中を解いちゃいけない」、演者も観客もそういうゾーンに入っちゃうアクトって現実でも目の当たりにすることがあるけれど、まさにその感覚だった。

音楽、ひいてはロックバンドを愛する者の数だけ、本当の意味で「音楽に出逢った日」は、存在するのだと思う。あの曲の再生ボタンを押した日。初めてエレキギターをアンプにつないだ日。勇気を出してライブハウスに足を踏み入れた日――映画『音楽』は、「その日」の胸の高鳴りを追体験するような、そんな映画である。
音楽を愛する人すべてに目撃してほしい傑作だと思う。公開劇場は続々拡大中、公式サイトをぜひチェックしてほしい。(徳永留依子)

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