3月に来日公演を予定しているフォールズだが、彼らが現地時間2月17日、ロンドンのシェパーズ・ブッシュ・エンパイアで行ったライブ・レポートがこのたび公開された。
インタビューにライブとフォールズの取材が続いた。2月半ばにドラマーのジャックにインタビューした直後の18日に、バンドはブリット・アウォーズの最優秀ブリティッシュ・グループ賞を受賞した。権威あるこのイギリスの音楽賞の中でも、ひときわ重要な賞だ。もしも順番が逆でインタビューがあとだったら、「'You deserve it! '(あなたたちこそこの賞にふさわしい!)」と声をかけてあげたかった。ま、御本人たちはこのセリフを今頃、何百回、何千回と聞いているだろうが。10年以上自分たちの才能を信じて積み重ねてきた努力が報われたバンドだけに、この言葉のシャワーをたっぷり浴びてほしいと思う。
こうして自他共に認めるベスト・グループになったフォールズの今年初めてのライブが、2月17日、ロンドンO2シェパーズ・ブッシュ・エンパイアで行われた。これは、ウォー・チャイルドという、紛争地帯の子供たちの救済活動をするチャリティ団体のための資金集めを目的としたシリーズ・ライブで、6回目となる今年は、2月5日から22日の間、ロンドン各地の会場で、フォールズほか、シグリッド、デクラン・マッケンナ、キャットフィッシュ・アンド・ザ・ボトルメンなど13アーティストの公演が行われた。
フォールズにとって、これは意味あるチャリティ・ライブであるだけでなく、交替したばかりの新ベーシスト初披露の場、そして来るべきアジア・ツアーに向けてのウォームアップの意味合いもあり、さまざまな意味で試金石となる重要なライブだった。3月の来日公演の中身を占うためにも、これは外せない、とさっそく出かけてみた。
サポートはザ・マジック・ギャング。普通なら次にメイン・アクトが登場するところだが、今夜はチャリティ・ライブ、ということで、ウォー・チャイルドの代表が挨拶。続いて、実際にウォー・チャイルドに救済された少女が、幼い子供たちが兵役に取られ、訓練に次ぐ訓練で子供らしい子供時代を奪われている自国の惨状を訴えた。退場する2人の背中に拍手が浴びせられる中、胸がつまったままでいるところへ、静かな音楽が聞こえてきた。
フォールズの最新作『エヴリシング・ノット・セイヴド・ウィル・ビィ・ロスト・パート2』のオープニング曲“Red Desert”。何かが始まる予感に満ちた曲。そこへメンバーたちが登場。そのまま同アルバムの2曲目“The Runner”へとなだれ込み、場内の空気が一変した。曲は軽快に、しかし地響きをたてるように鳴り、ヤニスの朗々とした声がそれに乗ってひた走る。
前半は、ライブでおなじみ“Snake Oil”、“Mountain at My Gates”のようなヘヴィ・チューンに『パート1』からの“On The Luna”、“Exits”、『パート2』からの“Wash Off”のような曲を加えて、曲間の間合いもおかずに、高速、豪快に展開する。ヤニスに煽られ、モッシュ・ピットでひとかたまりになった人波が大きくうねる。ビールの入ったカップがその上空で飛び交い、場内の熱気がどんどん高まる。
途中、ヤニスが「このような尊い活動をしているウォー・チャイルドのためにプレイできて光栄です」とコメント。そして、新ベーシストを紹介する。「ジャグウォー・マのジャック・フリーマンに入ってもらいました!」。フォールズのツアー・メンバーとして今宵初お目見えとなったジャックは、体格のがっちりしたメンバーたちの中で一人ひょろ長く、一見頼りなさそうだが、すでにフォールズならではの骨太ベースを立派にマスターしている。“Exits”が終わったところで、観客の間から“The French Open”(ファースト・アルバムの曲)の大合唱が起こり、それを追いかけるようにバンドの方がさわりを演奏する一幕があった。観客主導の1曲。こんなステージと客席との親密なやり取りが微笑ましかった。
中盤の“Spanish Sahara”で、場内はいきなり沈静化する。美しいギターとキーボードのメランコリックな曲。ゲームの『ライフ イズ ストレンジ』に使用され、これでフォールズを知った人もいる有名な曲だ。これを皮切りにやや流れが代わり、後半は“Birch Tree”、“Inhaler”などミッドテンポの曲中心に進む。『パート2』からの“Like Lightning”の「稲妻を投げる」というフレーズを聞き、画家ウィリアム・ブレイクの啓示的な絵画が目に浮かんだ。
本編ラストでは、ステージで初パフォーマンスとなる『パート2』からの10分近い壮大なナンバー“Neptune”が演奏された。ネプチューンはローマ神話の海神。ギリシャではポセイドンになる。海を思わせる青いライティングがあたりを彩る中、モダン・サイケデリアとでもいうべきディープなサウンドが観客を包み込む。海の底から、見せかけの平和が訪れたディストピアを見るような印象的なエンディングだった。
ライブ本編は、『パート2』のオープニング曲で幕開け、『パート2』ラストの曲で締めくくられた。この2曲に挟まれた中身はきらめく轟音のドラマだった。
アンコールは定番の“What Went Down”と“Two Steps, Twice”に新作からの“Black Bull”を加えた3曲。フロアは大ダンス大会。アリーナ席だけでなく2、3階のバルコニーまで大丈夫か、と思うほど揺れている。ドラムのジャックが後方に坐っていられず、スティック持って大きく立ち上がる。この超絶テクのドラマーは、バンドを支える屋台骨とかでなく、バンドを引っぱる圧倒的な推進力だ。
“What Went Down”でヤニスがクラウド・サーフ! 観客の海の上に仁王立ちになる。不思議なキャラクターの人である。少年の無鉄砲さと大人の思慮深さを併せ持つ人。神々しくもあり猛々しくもあり。パフォーマンス中の彼は、神性と獣性の両方の輝きを放つ。フォールズも、考えてみるとそんなバンドである。繊細さとダイナミズム、静寂とカオス、平穏と不穏、洗練と野蛮。一見正統ロックと見える音の中に、これら相反する要素を矛盾なく取り入れ、複雑なレイヤーを作る。そのレイヤーの底では、今も彼らが取り組まずにいられぬ実験音が息をひそめ、時折奇妙なリフやリズムとなって表出する。こんな普通であって普通でないところがフォールズを特別な存在にしている、と思う。
来日公演について、ジャックは次のように語っていた。
「サマソニの時より曲数を格段に増やし、全体もっとディープなセットが構成できると思う。『パート2』からの曲もたくさんやる予定。聞きどころは、アルバムのラストの曲“Neptune”。壮大で、エネルギーあふれる曲だから、ライブも聞き応えのあるものになるだろう。フォールズをよく知る人にも、ライブを初めて見る人にも楽しめるものにしたい。よく知られている曲とツウ好みの曲を織り交ぜて」
この夜のライブは、まさにその通りの内容だった。おそらくは、この路線をそのまま日本へ持っていくのだろう。来日公演のお楽しみのために、ロンドン・ライブをこれ以上詳述するのは控えるが、とにかく中身の深すぎる、聞き応えのありすぎる、それでいてどこまでも楽しいライブだった、とお知らせしておこう。(文=清水晶子)
なお、フォールズの公式SNSでは、日本語で綴られた来日に向けてのコメント、さらに昨年出演したサマーソニックでのセットリストをアップしている。
3月の来日ツアーの詳細は以下。