まず、綾野と星野のタッグは、2015年と2017年に放送されたTBS『コウノドリ』での絶妙なツンデレ関係を思い出させる。綾野に関して言うと、『新宿スワン』の白鳥龍彦、『日本で一番悪い奴ら』の諸星要一、『最高の離婚』の上原諒など、これまでに多種多様な「バカキャラ」を演じてきた訳だが、今回は考える前に身体が動いてしまう「野生のバカ」とのこと。絶対にハマりそうという確信が持てるし、星野ともお互いを「剛くん」、「源ちゃん」と呼びあうスペシャルインタビューからプライベートでの仲の良さが垣間見える。そんな二人が今度は「バディ」役だというから楽しみでないはずがない。
タッグといえば「星野源×脚本家・野木亜紀子」にグッと来ている人も多いだろう。初回から一度も視聴率を落とさず社会現象になった、あのTBS『逃げるは恥だが役に立つ』のコンビだから。今回のドラマの打ち合わせの際、星野は野木に「いい人じゃない星野源が見たい!」と言われたという。星野ファンなら彼の暗い部分やオフの時、世間に対する疑問やナニクソ精神などの側面も十分わかっているだろうし、事実「いい人じゃない」役を演じたこともあったが、ポイントは、「『逃げ恥』であの平匡さんを描いた野木が描く『いい人じゃない星野源』」なのだ。
対談連載のムック本『星野源 音楽の話をしよう』で星野と野木が2017年にこんな話をしていた。
二人の間にはまず互いを人間として信頼している土台があり、その上に演者と裏方としての相性の良さが上積みされていることをこの対談は物語っていた。野木があの「平匡さん」の次にどんな役柄とセリフを星野に吹き込んでくるのか、気になって仕方ない。星野:脚本家にもいろんなタイプの方がいて、脚本の中だけに自分を見いだす方もいると思うんです。でも野木さんは、脚本が主役で自分は裏という感じではないですよね。人間としての魅力がまずある気がして。それを作品からも感じます。野木さんとキャラクターのつながりがちゃんとあるというか。
野木:(中略)全部好きですよね、キャラクターは。好きじゃないと書けない気がしちゃうし、原作のある作品でも全員わかると思いながら脚本を書いているので。極端なことを言えば、殺人犯の気持ちもわかるような気がしてしまう。
ほかにも、プロデュースは新井順子(『わたし、定時で帰ります。』『中学聖日記』『アンナチュラル』『リバース』ほか)、監督は塚原あゆ子(『グランメゾン東京』『グッドワイフ』『中学聖日記』『アンナチュラル』ほか)で、「野木×新井×塚原」はTBS『アンナチュラル』以来の再集結とのこと。ここ数年のヒット作を連発してきたスタッフ陣が並ぶあたり、力の入れようが違うなと舌を巻くほどだ。
また、野木の書く脚本には現代に起きる社会問題や、それに苦しんだりもがいたりする人間のリアルな「生活」が必ずと言っていいほど切り取られている。日本テレビ『獣になれない私たち』では、質も量も営業アシスタントの範囲を超える業務に悩まされながら、結婚を考えていた彼氏にも浮気され、自分の存在意義を見失う主人公(新垣結衣)の姿に救われない悲しい気持ちを毎週抱きながら、それでもただ一緒にビールを飲める相手がいるということがいかに大切か思い知らされた。「ドラマ」の中の遠い話ではなく、我々の「生活」に潜むネガティブな面も愛をもって誠実に描いてくれることで、このドラマは信用していいんだと思わせてくれるし、だからこそそばにおいて何度も見返したくなるのかも知れない。辛いとき話を聞いてくれる友達の存在にも近い気がする。今回は、24時間で事件解決を目指す一話完結型の刑事モノということで、いつになくスピード感や華々しさを帯びた海外ドラマっぽさを感じるが、警視庁の働き方改革の一環で作られた架空の設定が綾野と星野が属する機動捜査隊に含まれているという。「働き方改革」。なんとも野木ワールドではないか。野木脚本ならではの社会や人間のリアルを描いた唯一無二の刑事モノを期待している。
最後に、徐々に解禁されている共演者とまだ解禁されていない主題歌。一話完結型なので週替わりゲストならあの人やこんな人が出てほしい!とか、主題歌に期待せずにいられない!とか、多くの声が聞こえてきそうだが、私も妄想をしながら少しずつベールが剥がされていく本作の続報を心待ちしたい。(金秀奈)