東京スカパラダイスオーケストラのインストゥルメンタルの楽曲はなぜ、いつだって晴れやかに「歌って」いるのか。多彩な個性あふれるゲストボーカルを迎えた数々の「歌モノコラボ」の1曲1曲でなぜ、そのクリエイティビティを無限増幅させる化学変化を実現し得ているのか。9人全員がエースストライカーであるかのような卓越したプレイヤー精神はもちろんのこと、デビュー以降30年にも及ぶ闘いの日々の果てに「音楽を楽しみ尽くす」マインドを獲得したその音楽世界の根底で、メンバーそれぞれのパーソナリティが豊かな通奏低音として鳴り響いていることも、スカパラの大きな魅力である――ということはご存知の通りだ。そんな「メンバーの表情と人柄」にバンド全体でフォーカスを合わせたような場面を、その30年史の随所に見ることができる。(高橋智樹)
●GAMO(Tenor sax)/“Paradise Has No Border feat.さかなクン”
そのタイトなテナーサックスの音色でホーンサウンドの一翼を担う以上に、全方位的に弾け回る強者メンバーたちのハイエナジーなエモーションをひとつのベクトルへと昇華する不屈のアジテーター=GAMO。「闘う大人」ゆえの硬質な挑戦精神と凄味。「闘う大人」だからこそ醸し出せる余裕とユーモア。「天国に境界線はない」――GAMOが導く先にあるのは、そんなスカパラの原点と理想そのものだ。
●加藤隆志(G)/“Diamond In Your Heart”
幅広い音楽性を繰り広げるスカパラにおいて、スカ特有の裏打ちのカッティングのみならず、揺るぎないロックのバイタリティを体現しているギタリスト・加藤隆志。“ルパン三世'78”のようなリフもののロックンロールはもちろんのこと、
細美武士(
ELLEGARDEN/
the HIATUS/
MONOEYES)をボーカルに迎えたこの“Diamond In Your Heart”での「リズムを刻む」を超えた「ビートそのもの」の高揚感は、加藤の情熱のこの上なく美しい結晶だ。
●谷中敦(Baritone sax)/“All Good Ska is One”
「闘うように楽しんでくれよ!」――谷中敦がライブで突き上げる言葉は、長い歴史の中でスカパラが築いてきた至上のアティテュードであり、谷中自身の音楽と/人生との向き合い方そのものでもある。スカパラの音楽に明快な「言葉」を与えてきた谷中が《Shout great pleasures》、《Come together as all good ska is one》と呼びかけながら、一点の曇りもない音楽のユートピアの在り処を指し示している。
●茂木欣一(Dr)/“銀河と迷路”
インスト主体ではありつつ「ステージ上の随所から歌声が飛び交う」という特殊なスカパラの表現においても、とりわけ色彩豊かな歌を聴かせる「ボーカリスト」=茂木欣一。ダンディな迫力に裏打ちされたメンバーの中にあって、「永遠の少年性」とでも呼びたいセンチメントを帯びて響くその声質は、ドラマ主題歌としてチャート入りも果たしたこの楽曲にもひときわ鮮烈なポップ感を与えている。
●大森はじめ(Percussion)/“DOWN BEAT STOMP”
スカパラの「全員フォワード感」をよりいっそうリアルに感じさせているのは、舞台後方のパーカッションブースからアグレッシブな生命力を放つ大森はじめの存在も大きい。そして、“DOWN BEAT STOMP”などの楽曲でステージ前面に飛び出しボーカル/アジテーターとして圧倒的な熱量をサウンドに注ぎ込む姿は、バンド/音楽のルールを自由闊達に刷新し続けるスカパラの核心の象徴とも言える。
●川上つよし(B)/“美しく燃える森”
すべてがリード楽器のようなパワフルなアンサンブルの中で力強く丹念にボトムを支えるリズム探求者であり、「歌モノシングル」の最初のコラボ曲“めくれたオレンジ”などソングライターとしてもバンドの重要曲を生み出してきた川上つよし。
奥田民生を迎えた“美しく燃える森”は、スカパラが獲得した「歌とメロディとアンサンブルの蜜月関係」を今なお鮮明かつ妖艶に伝えるものだ。
●NARGO(Trumpet)/“SKA ME CRAZY”
眩しいほどのサウンドとプレイでスカパラの楽曲を華麗に彩るNARGOが、トランペットを鍵盤ハーモニカに持ち替えて演奏する“SKA ME CRAZY”。素朴な音色を巧みに操りながら、歌メロのメインフレーズを次々に展開させていく。縦ノリも横ノリも渾然一体となったこの曲の強烈なグルーヴが、どこか朗らかな開放感に満ちて響いてくるのは、楽器越しにも伝わるNARGOの「歌心」ゆえだろう。
●沖祐市(Key)/“君と僕”
オルガンやピアノ、アコーディオンといった鍵盤楽器群を、時に体の一部の如き躍動感をもって、時に豊潤かつ精緻な響きとともに奏でる沖祐市。そんな彼が「口笛奏者」としてほぼ独演状態で主役にフィーチャーされている“君と僕”は、メンバーを「プレイヤーとしての技量」のみならずその人柄においてリスペクトし活かしていく「スカパラという磁場」を如実に物語る名場面でもある。
●北原雅彦(Trombone)/“ペドラーズ”
観る者すべてのトロンボーンの既成概念をアップグレードさせる鮮やかなフレージングとダイナミックなプレイスタイル、その裏に確かに息づくストイシズム――。メンバー最年長にしてホーンセクションのリーダー=北原雅彦の真価は、それこそ初期からのキラーナンバー“ペドラーズ”のようなカオティックなまでの狂騒感に満ちた超攻撃型ナンバーにおいて、よりいっそうダイレクトに発揮される。