7月8日にリリースされたばかりの新作ミニアルバム『Symbol』は、「みやかわくん」から、本名である「宮川大聖」名義に変えての初の作品となり、全曲で自らソングライティングを手がけ、シンガーソングライターとしての新たなステージへと突入する重要な作品となった。つまり決意と覚悟を表明する一枚。決してこれまでの「みやかわくん」としての音楽活動が、本気じゃなかったということではない。ではなぜ今「宮川大聖」として新たなスタートを切るのか。その答えは現在発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』2020年8月号のロングインタビューで語られている。
宮川大聖として作品をリリースするのは、本当に自分自身が納得のいくもの、100%の手応えを感じられたものができた時だと、彼ははじめから決めていたのである。「メジャーデビューしたタイミングで考えていたのは、いつか自分に音楽家としてのスキルや自信がついたら、そこで初めて本名で活動しようということでした」
もともと非常に表現力に優れたシンガーである。ファルセットも低音も独特のしなやかさを持ち、歌声は気持ちいいほど自在に繰り出される。それに加えてメロディメイカーとしての多彩なソングライティング力も、作品をリリースするごとに高まっていった。それでもこれまでは彼自身がまだ100%納得できる地点には到達していないと感じていたということ。ようやくその到達点まで来たと自身が感じている、それが「今」であり、それこそが『Symbol』であるということ。
その重みはアルバムを一聴すればすぐに感じられるはずだ。実験的でエキセントリックな表題曲に驚いた人も多いかもしれない。ラップも含め、めまぐるしく展開していくこのハイパーな楽曲を、しかとひとつの作品として着地させる歌唱スキルと表現力。自らのポテンシャルを限界まで引き出して形にする作業は並大抵のものではなかっただろう。実際、この楽曲の完成にはかなりの時間を費やしたという。同インタビューでは、次のようにも語っている。
そんな言葉からもわかるように、“Symbol”という楽曲については(もちろん他の収録曲に関しても)、宮川大聖は1ミリたりとも妥協するつもりがなかったのである。苦しみの中で完成したこの曲こそが、新たなスタートへの扉を開けた。他収録曲も、1曲目の“ロア”のダークさ、そして、現代的なポップファンクとして洗練された歌声を響かせる“Midnight Parade”、弾けるようなポップネスを携えた“リリア”、官能的でありながら不穏な空気をまとうバラード“get out get”など、これまでの音楽活動で得たスキルとセンスを一段階も二段階もアップデートさせながら、非常に洗練された現代的なポップアルバムを完成させたのだ。確かにこのアルバムは「みやかわくん」のものではなく、「宮川大聖」のものだと感じる。今がその時だと、そう感じさせる説得力に満ちている。「たとえば、リリックの表現方法も、音の運び方も、パフォーマンスの仕方や歌い方も、ほんとにいろんな面で挫折を感じて。こんなことで、ここから先通用するのかなっていう思いがのしかかってきて。そこからしばらくは(“Symbol”の)制作に手をつけられなくなってしまった時期もあったくらい。組み立てては壊してを繰り返して」
作品をリリースするごとに自身のカラーを多様に広げていきながら、常に真摯に音楽に向き合ってきたみやかわくんが、自身に対するハードルをマックスまで上げて制作に臨んだのがこの『Symbol』だ。シンガーソングライター「宮川大聖」としての覚醒がここにある。その進化を誰もが感じることだろう。各楽曲についての話や、自身の揺るぎのない決意について語る『ROCKIN'ON JAPAN』本誌のインタビューも、ぜひこのタイミングで読んでもらえたら、より宮川大聖の「本気」を受け取ってもらえるのではないかと思う。(杉浦美恵)