年末年始特別企画! ロッキング・オンが選ぶ、2020の「年間ベスト・アルバム」TOP10を発表!(第9位)

年末年始特別企画! ロッキング・オンが選ぶ、2020の「年間ベスト・アルバム」TOP10を発表!(第9位)

2020年も残りあとわずか。

新年へのカウントダウンが盛り上がるこのタイミングで、ロッキング・オンが選んだ2020年の「年間ベスト・アルバム」ランキングの10位〜1位までを、毎日1作品ずつ発表していきます。

年間9位に輝いた作品はこちら!
ご興味のある方は、ぜひ本誌もどうぞ。

【No.9】
『ミス・アントロポセン』/グライムス


年末年始特別企画! ロッキング・オンが選ぶ、2020の「年間ベスト・アルバム」TOP10を発表!(第9位)

世界の危機を前に覚醒したポップ・アート

近年何かと音楽以上にゴシップでの話題が多かったのは彼女のポップ・アイコン性の高さによる宿命だが、しかし、母親になったことはこのアルバムと深く関わっているだろう。「アントロポセン(人新世)」とのタイトルから誰もが気候変動が主題であると判断したが、日本のアニメを思わせるビジュアル、断片的なリリック、そして、アナウンスされていた「気候変動を司る女神」とのコンセプトを本当に理解できたひとがどれほどいただろうか。グライムスの込み入ったコンセプチュアル・アートは彼女――クレア・バウチャー――の専売特許であり、ポップ・アートであることは徹底されているものの、本来とてもパーソナルなものである。だから、インターネット世代らしくオタク的に、それまで世界中のカルチャーと戯れていた自分が次世代を育てる立場となり、気候変動と向き合ったときに生まれる不安や恐れのようなものが、このアルバムを覆っているのだろう。

ビートの重たさ、インダストリアルな音色、物悲しい旋律が決定づける本作の印象はとてもダークで、それは初期のファッション性の高いゴス志向ともまた異なる激しさに満ちている。また、ドラッグ、自殺や死のモチーフが散見されるが、それは何もZ世代だけがポップ・カルチャーにもたらしたものではない。実際、グライムスはビリー・アイリッシュよりも先にポップとオルタナティブをキッチュに混ぜ合わせながらダークな心象を立ち上げていたではないか。ただ、その打ち出しがキャッチーであったために、彼女の空想としてリスナーは楽しむことができた。本作にもポップなフックは多々あるのだが、明らかにその生々しい迫力は増している。重たいトリップホップから始まり、弾き語り調のバラードが挿し込まれたり、突如ドラムンベースになだれこんだりする散らかった構成もかえって緊迫感を生む。

重たかったアルバムはラスト、“Idoru”で一転して明るい光を導いてくる。それは世界の滅びのあとの光明のような、両義的な清々しさに満ちている。少女性を押し出すことで愛される「アイドル」でいることは、この世界の危機を前にして、あるいは親となることで、もう二度とできないだろう。苦さと解放感が入り乱れたこの複雑なフィーリングが、グライムスのポップ・アートを一段上に引き上げたのである。(木津毅)



「年間ベスト・アルバム50」特集の記事は現在発売中の『ロッキング・オン』1月号に掲載中です。
ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。


年末年始特別企画! ロッキング・オンが選ぶ、2020の「年間ベスト・アルバム」TOP10を発表!(第9位) - 『rockin'on』2021年1月号『rockin'on』2021年1月号
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