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ジェフ・ポーカロ(TOTO)
1980年代、日本人に最も人気の高いロック・ドラマーは誰だったかと言えば、それはTOTOのジェフ・ポーカロだろう。17歳でプロデビュー、19歳でスティーリー・ダンのツアー・ドラマーに抜擢されるという華々しいキャリアの幕開けから、マイケル・ジャクソン『スリラー』が叩き出した史上最大セールスを“今夜はビート・イット”や“ヒューマン・ネイチャー”などのドラム・プレイで支えたほか、日本のポップスを含めたレコーディングは数知れず。
1992年に38歳という若さで他界しながら、21世紀に入っても『セッション・ワークス』といった名演コンピがリリースされ、彼のドラムス教則ビデオはそれ自体が聖典と化した。そう、ジェフは誰もが羨む技巧派スーパー・プレイヤーだったばかりではなく、ドラムスの「教師」として存在感を振りまいていたのだ。
ジェフと同じくセッション・マンとして活躍し、キャッチーなソングライティングにおいても手腕を振るったデヴィッド・ペイチ、そして実弟スティーヴ・ポーカロによる華々しいキーボード演奏も印象的なサウンドをもって、TOTOは1978年に鳴り物入りでデビュー、すぐさまチャート上位に飛び込む。端正な楽曲デザインが決して単調でも退屈でもなかったのは、ジェフのドラムスがもたらす躍動感によるところが大きかったろう。
例えば、シングル曲“ジョージー・ポージー”の物憂げな歌心ごとグルーヴさせる繊細で正確なタッチ。或いは、“マヌエラ・ラン”のロックなサンバ・ビートを思わせるダイナミズム。ジェフはありとあらゆるドラムス表現を理知的に、論理的に解析し、肉体へと還元させた。彼が「教師」として活躍する一面を持っていたのは、論理を他者に伝えることができたからである。
「すこぶるキャッチーな楽曲の中で、わけがわからないほど凄いプレイが聴こえる」。そんなジェフの真骨頂は、言わずと知れたグラミー6冠『TOTO Ⅳ〜聖なる剣』にある。ハーフタイム・シャッフルとも、そのまま曲名を取ってロザーナ・シャッフルとも呼ばれる高度なリズム・キープと強弱のタッチ変化を融合させたプレイは、リスナーの度肝を抜いた。ポップ・ミュージックの門戸を広げ、リスナーをその魅力深くに触れさせることは、ジェフにとってTOTOの活動意義そのものでもあったのではないだろうか。(小池宏和)
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