【43日間、連続公開!】ロッキング・オンが選ぶ究極のロック・ドラマー43選/スチュアート・コープランド

ロッキング・オン6月号では、「究極のギタリスト」を特集しています。そこでギタリスト特集とあわせて 、昨年の9月号に掲載したロッキング・オンが選ぶ「究極のロック・ドラマー」を43日にわたり、毎日1人ずつご紹介します。

「究極のロック・ドラマー」に選ばれたアーティストはこちら。

スチュアート・コープランド(ザ・ポリス など)

【43日間、連続公開!】ロッキング・オンが選ぶ究極のロック・ドラマー43選/スチュアート・コープランド

スチュアート・コープランドが技術的にも独創性の面においても、ずば抜けた才能を持つドラマーであることに異論はないだろう。多彩なハイハット回しとバスドラで刻まれるバックビートが代名詞となっているが、高音で打ち込まれるタムといい、ビッキビキにタイトにチューニングされたスネアといい、70年代の主流だった太くもったりした打音の真逆をいく、竹を割ったようにシャープで迷いのないドラミングが何よりも魅力だと個人的には思っている。

手数が多いポリリズミックなリズムを刻む人でもあるが決して難解には聞こえないのはそれゆえだし、ひとつひとつのビートはスクエアで凝縮されているのに、それらが描く波形は円やかでリラックスしたものだったりするように、ビートという「点」ではなく、楽曲という「空間」の担い手としても極めて優れたアーティストなのだ。

スチュアートはCIAの職員でもあった父親の仕事の関係でカイロやベイルートで幼少期を過ごし、ドラムを始めたのも中東での少年時代だという。そんな彼の生い立ちからも、R&Bをルーツとする欧米的なロックンロールとは異なる彼のドラマーとしてのバックグラウンドがうかがえるし、ザ・ポリスの代名詞となったレゲエ・ビートも、そんな彼のマルチカルチュアルな個性と無関係ではないだろう。ただし、彼はレゲエ・ビートを上手に叩く白人ドラマーだから凄いのではなくて、パワフルで直線的、かつ前のめりのパンクのビートと、タイミングと抜け重視で重心後ろのレゲエのグルーヴ感覚、まさに水と油の両者を見事に融合させたのが偉大だったのだ。

かの“ロクサーヌ”といい(スチュアートは同曲をレゲエではなくむしろタンゴだと証言しているし、所々マンボにも聴こえるが)、コーラスで一気に駆け出す“ソー・ロンリー”といい、スチュアートのドラムスが体現した相反するビートとグルーヴの融和点は、ポリスの初期の作風を決定づける最大の要素となった。全員の才能が高次元で拮抗していたせいで常にピリついたライバル関係にあったポリスの3人だが、あのスティングですら「スチュアートのグルーヴが作った空間なくしてポリスは生まれなかった」ことを認めている。そんなポリスのパンク×レゲエの融合が極まった作品がセカンドの『白いレガッタ』だ。

特に“ウォーキング・オン・ザ・ムーン”はドラムが主役を張ったナンバーで、彼の全キャリアにおいても代表曲の筆頭に挙げられるのは間違いない。ただし、キース・ムーンやボンゾのようにドラム・セットの真上でスポットライトが輝くような主役の張り方ではなく、極端にミニマルなリム・ショットとハイハットを淡々と繰り返す抑えたプレイに徐々に耳を奪われていく、ステルス性の高いそれだ。とことん硬質なショットが大胆なディレイによって瞬く間に融解される硬軟のギャップといい、最後まで途切れることのない緊張感とレゲエというかダブの痺れるような恍惚の落差といい、聴けば聴くほど深みにハマっていくナンバーなのだ。

ポリスの中後期に差し掛かると、“世界は悲しすぎる”のように技巧全部盛りの過剰なナンバーから、ギミックを全て削ぎ落としたシンプルの極致の“見つめていたい”のようなナンバーまで、そのプレイはより楽曲至上主義的なアプローチに変遷していく。

そもそもポリスのドラムは“孤独のメッセージ”のように数種類のリズム・パターンをオーバーダビングしたナンバーも多い。卓越したプレイヤー揃いでありながら技に溺れず、常にサウンドメイカーとして俯瞰を意識していたのが彼らの凄さだと思うし、スチュアートが後にドラマーとしては異例の頻度でサントラやゲーム音楽を手がけることになったのも、彼があくまでサウンドのデザイナーだったからだろう。

ちなみに、ポリス以外での彼のプレイはもう少しわかりやすい。例えばポリス解散後に組んだアニマル・ロジックではオーセンティックなロック・ドラムが主流だし、逆にクラーク・ケント名義でのソロ・プロジェクトでは、巧みにオーバーダビングされたリズムのテクスチャー重視でポリス以上にロジカルなプレイだ。つまり、それぞれのプロジェクトの方向性に適したチャンネルを用いている印象で、幾つもの矛盾を孕みつつも絶妙のバランスが取れたポリスでのプレイは、やはりスティング、アンディとの三角関係が生んだ唯一無二のものだとつくづく思う。

また、ポリスの解散後はドラマーとしてのコラボ仕事にも積極的で、例えば彼はピーター・ガブリエルの『So』のオープニング曲“レッド・レイン”の冒頭でハイハットを叩くためだけにピーガブに参加を要請され、実際その十数秒のイントロはスチュアート・コープランド以外の何物でもない、凄まじい存在感を放っている。(粉川しの)



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