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ジミー・チェンバレン(スマッシング・パンプキンズ)
スマッシング・パンプキンズと言えばビリー・コーガンだが、ビリーがスマッシング・パンプキンズになるために必要な装置がジミー・チェンバレンだ。デビュー作からのバンドへの多大な貢献は周知の事実で、1996年にドラッグ問題でビリーに解雇されたが、現在3度目の復帰を果たしている。ビリーはジミーについてラジオで、「ジョン・ボーナムにも匹敵する世界一のドラマーだ」と讃えていたし、2015年USA Today紙では「パンプキンズの曲は誰でも演奏できるわけじゃない。ジミーのドラムは技術的に超高度で、かつニュアンスがあるから、代わりにこなせる人は稀だ」と語っていた。
さらに彼が特別だったのは、例えば同世代のグランジのドラマー達と比べても爆音が特徴ではなかったこと。元々ジャズ・ドラマーで、爆音を武器にせずまたその高度な技をひけらかさず非常に洗練されている。強烈なバックビートも叩くが、常にジャズのフリースタイルを感じさせる優雅さがある。ドラムが特徴的な曲は例えば“天使のロック”。『サイアミーズ・ドリーム』のプロデューサーのブッチ・ヴィグがドラマーなため、彼がジミーに人間には不可能なレベルのドラムを要求していたとビリーが言っていた。この曲は血を流すまで叩いたという逸話もある。軽快な幕開けは正にスマパンの特徴でもある未来への期待感を煽るし、《ここから出してくれ》という絶叫の後に雪崩込む爆音は、エモーションを頂点に向かわせる。
また『メロンコリーそして終りのない悲しみ』の“トゥナイト、トゥナイト”は至って普通ではないドラムを象徴する曲だろう。面白いのは、バンド一壮大なこの曲でジミーが、「ブライアン・イーノの手法で音を削除することで最大の音を引き出そうとした」とか、「世界的な名曲になると確信し、国際的な雰囲気がする“バードランド”のアレックス・アクーニャ(ウェザー・リポート)のサウンドを取り入れた」などと語っていたこと。洗練されたドラムはオーケストラにも呼応し、スマパンがオルタナ・サウンドを確立するキーになっている。
またジミーは「歌詞が何より大事」とも言い、実際スマパンの炸裂するエモーションは、ジミーにこそ支えられている。彼のドラムだけが、ビリーの闇にアクセスし悲しみと絶望の底から爆発する怒りや、または果てしない希望を極致へ飛躍させる。不可能を「今夜可能に」してくれる。(中村明美)
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