最高のハイブリッド・バンドが帰ってきた! ソウルをベースにジャズやファンクをあくまでオーガニックにミックスしていく音楽性、フロント・パーソンのナオミ・“ネイ・パーム”・ザールフェルトによる官能的なボーカルと抜群の存在感から、2015年の『チューズ・ユア・ウェポン』で一躍世界的な人気者となったオーストラリア出身のハイエイタス・カイヨーテ。
この度リリースされる『ムード・ヴァリアント』はじつに6年ぶりのアルバムとなるが、その間に各メンバーのソロや客演があったために不在感は薄かったかもしれない。ポケモンのブーツを履いて颯爽と登場したネイを筆頭とした、2019年のフジロックでのイカしたステージが記憶に残っている人も多いだろう。
ただ、本作のベースとなるトラックは2018年秋頃には出来上がっていたそうだが、ネイの乳がんが発覚したことで、手術と治療を優先したという経緯がある。さらにパンデミックによってツアーが中断されたことで、満を持してアルバムが完成したというわけだ。
そうした道のりもあってか、グルーヴィーでスムーズなアンサンブルはそのままに、『ムード・ヴァリアント』には前作以上にバンドの濃密なエナジーとエモーションが渦巻いている。何よりアレンジメントがより緻密に洗練された。ブラジルの伝説的なアーティストであるアルトゥール・ヴェロカイがアレンジを加えた先行曲“ゲット・サン”の、ジャジーでファンキーな陶酔感。ムーディなダウンテンポ・ナンバー“レッド・ルーム”の、息を呑むようなメロウネス。ピアノ・バラッド“ストーン・オア・ラヴェンダー”の、温かく甘美なソウル。ネイの歌はさらにセクシーに、生命力を増して高みへと上りつめていく。
タイトルには彼女の亡き母を偲ぶ意味もこめられているとのことで、そうしたパーソナルなフィーリングが聴き手の抽象的な「ムード(気分)」に親密に寄り添う本作。それは、先の見えない日々に疲弊する人びとの魂(ソウル)を深いところから癒すものとなるだろう。過去最高に充実した状態にあるバンドの現在とアルバムについて、次号インタビューで濃密に迫る予定だ。(木津毅)
ハイエイタス・カイヨーテの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』7月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。