キャンプサイトの話2


2005年のことだったと思う。前年にフジロックをドタキャンした友人Yのリベンジを果たすべく、二人でキャンプすることになった。

僕のテントはそろそろガタが来ていて、新調しようと思っていた。すると友人Yは、「実家にまだ買ったばかりで幾らも使ってないテントがあるから、持って行く」と言う。 それは、助かる。ので、そうしてもらった。

そしてフジ前日、つまりテント設営の日を迎えた。会場に着いてキャンプサイトに入り、さあ、テントを張ろう、という段になった。初めて見る形のテントだけれど、大の男が二人もいれば楽勝のサイズだ。ガシガシ組み上げる。……が、どうも何かがおかしい。


床がない。


「…これさあ、タープってやつじゃないか?」僕はタープを使ったことがないので、よく分からないままYに訊いてみた。Yは、固まっていた。

これではもう、怒るにも怒れない。人は心の底から絶望した瞬間、怒ることができない。

そういうわけで、僕たちはこの年のフジの四泊五日を「地べたにエアベッドを敷いて、タープの下で寝る」という過酷な条件のもとに過ごさなければならなくなった。これがどれだけ恐ろしい条件かは、昨年や今年の雨のフジロックを経験している方なら、容易にご想像頂けるだろう。

毎晩ヒヤヒヤした。ところが、奇跡的に、この年のフジには雨が降らなかったのだ。多少は降ったのかも知れないけれど、気付かなかったし、被害はゼロだった。

我々はもう、フジで多少の雨に降られようと、ガタガタ言いません。なんといっても、あの年のフジに、雨は降らなかったのだから。フジは毎年、少しずつ、我々を強くしている。
(小池宏和)