今だから観てほしい、音楽の力を信じるすべての者に捧げられた『U2イノセンス+エクスペリエンス ライヴ・イン・パリ』


音楽の力を、ロックが持つエネルギーを信じるすべての者に捧げられた、凄まじい公演のドキュメントである。『U2イノセンス+エクスペリエンス ライヴ・イン・パリ』。

昨年11月13日、パリ同時多発テロが起きた時、他の多くの事件が起きた時と同様、ライブを中止するアーティストは多くいた。だが、非現実的な理想論と言われてしまえばそれまでだが、そのようなとき、ライブを予定通り行うというのは、テロに屈しない、このようなことで表現する自由を奪われてはならない、というメッセージを発するということに他ならない。ちなみにマドンナは事件翌日ストックホルムでの公演を予定通り行なった。

11月に予定されていたU2のパリ公演は延期となり、できるだけ早くパリに戻ってくるとバンドが宣言していた通り、12月7日に振り替えられた公演の模様を収めたライブDVDがこの『U2イノセンス+エクスペリエンス ライヴ・イン・パリ』である。

何が凄まじいって、ここには、表現する自由、ロックし続ける自由と、そうして放たれる音楽のエネルギーは不滅であり、誰にも奪われることはないということが、ものすごい熱量で描かれていることだ。

愛する者を失うという喪失体験は、生まれた時代や肌の色や信仰や、育った/移り住んだ場所、そうしたことに関係なく誰にとっても同じである――そのことを、ジョーイ・ラモーンに捧げた“The Miracle (Of Joey Ramone)”、母に捧げた”Iris(Hold Me Close)”を通じてライブの序盤で言い切ってしまう。

ぜひともDVDを観てもらいたいのでこの先は詳しくは書かない。本日、7月29日発売です。

あまりにも人々のために向けられているから、奉仕や慈善のレベルにまで思えてくるほどだが、それは、このライブがエンターテイメントとしても、バンドのストーリーとしても完璧に成立しているからである。2時間強のセットで、ロックの持ちうる力すべてをもって、闘い、許し、共感を描き、そこに享楽性をも詰め込んでしまう。そして、悲しみや怒りはストレートにぶつけても意味がなく、憎しみに憎しみで向き合っても意味がない、だから凄まじい高揚感で音楽を鳴らすだけだ、というシンプルなメッセージが届けられる。

今だからこそ、多くの人に観てほしいと思う。

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