2021年12月9日、LAのメモリアル・コロシアム。サンデー・サービス・クワイアの合唱にあわせ、カニエ・ウェストとドレイクが姿を現した。晩夏から秋にかけてのディス合戦を遥かかなたに押しやった、奇跡の瞬間。カニエ『Donda』とドレイク『Certified Lover Boy』はインパクトでは前者、チャートでは後者に軍配が上がった。
突然のリユニオンの目的は、6回分の無期懲役に服しているギャングの親玉、ラリー・フーヴァーの恩赦。だが、本人がコンサート直前に「逆効果では?」と懸念を示して勢いを削ぐ顛末に。
それでも、ふたりのリユニオンは朗報だ。11月にポッドキャストに出演した際、まだ戦闘モードだったカニエが「どんな状況でも(ドレイクに)勝てる」と言ったため、フレンドリーな対戦の側面もあるかも、と私は予想していた。だが、いい意味で勝負にならなかった。カニエは過去のヒット曲をくり出す構成、彼より10曲以上短かったドレイクは徹頭徹尾2021年仕様で、比べようがなかったのだ。
ドレイクは頭でカニエの“24”をカバーして故コービー・ブライアントを地元で追悼し、“God’s Plan”で締めた以外は 『Certified Lover Boy』と3月に出した『Scary Hours 2 』の曲、2020年と2021年の客演曲のみ。多くがライブ初披露であり、カニエのセットでノスタルジーに浸ったファンは一気に「今年」の緊張感に引き戻され、痺れた。
余計な演出を一切排したこのコンサートで、ふたりの立ち位置のちがいが浮き彫りにもなった。右腕マイク・ディーンの力を借りて名曲にアレンジを施した――“セイ・ユー・ウィル”に足されたギターはロック・ファンも必聴――カニエはプロデューサーとしての天賦の才込みでスーパースターであり、ラップと歌、中間のメロディアスなラップの3種を瞬時に切り替えるドレイクはパフォーマーとして頂点に立っている。
いずれにせよ、しばらくふたりがシーンを牽引する予感で胸がいっぱいになった夜だった。もうケンカしないでね。 (池城美菜子)
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