続々とラインナップが発表され、今年も注目が集まるフジロック。2025年の見どころや、気になるブッキングの裏側についてスマッシュの高﨑亮さんに話を訊きました。フジロックをより深く楽しむためのヒントが詰まったインタビューです。(インタビュアー:粉川しの)
●現在は、ラインナップがほぼ固まってきた時期ですか?
「そうですね。そもそも第1弾発表で60アーティストを一挙に発表したのもフジロック史上初めてのことで、骨格は既にできていて、あとはちょこちょこ穴埋めしていく感じですね。今年のフジの色はもう見えてきているんじゃないかと思います」
●質・量共に圧巻の第1弾発表でしたが、まずはブッキングの出発点からお話を伺えますか。
「まずはこういう話から始めるのがいいかなと思うんですが、昨年はヘッドライナーにかなり苦戦したんですよ。世界的にも、それこそ昨年はフェスがなくなったり、開催が中止になったりといったことが複数ありましたよね。数年前であればアーティストがアルバムを出して、次はフェスに出て、という流れができていたんですけど、ここ数年はアルバムを出して、そのままソロツアーが始まって、結局フェスには出演しない、というパターンが増えてきたんです。フェスに出演するよりも、単独公演のほうがお金的にいいっていう状況で。やっぱり今のソロツアーって、オアシスが再結成してしまうくらいのお金が回るわけで」
●再結成オアシスはフェスには出ない、というのも象徴的ですよね。
「そう、だから今年も、かなり苦戦するだろうとは予想していて、実際に動き始めたところで、やはりなかなか厳しいなあ……と。例えば、それこそオリヴィア・ロドリゴあたりにも話はしたんです。彼女は昨年単独で来たので、次はフェスでどうですかと。でもうまく着地ができなかった。あとは、やはり状況としての円安も大きかったです。アジアにおいても、日本が強くなくなってきているという。とにかく、今年に関してはそうした幾つかの背景がありました。で、じゃあどうしよう、というところで、色んなアーティストに並行してアプローチしながら、まず最初に決まったのがヴルフペックです。
彼らはうちの会社が元々ずっと追いかけていたアーティストで、フジに出したいという話も以前からしていたんです。ただ、やっぱりフジロックってステージ毎に色があるじゃないですか。なので、フィールドオブヘヴン担当が『ヴルフペックを見せたいんだよ』と言った時に、他の皆も『いいね!』とはなったんです。日本では未だそこまでポピュラーではないけれど、ただアメリカでは大成功しているアーティストなので、フィールドオブヘヴンではもう予算的に難しいとなり。どうしようか、ということをずっと話していて……ぶっちゃけ、これがサマーソニックであれば、ヴルフペックがヘッドライナーというのは絶対にないと思うんですよ。でもフジロックであれば、フジロックらしいアーティストだし、ライブも凄いから、であればもうヘッドライナーでいこう、という決断を会社として下すことができたんです。よし、いくぞ!と。それで最初に決まったヘッドライナーになりました」
●ヴルフペックに関しては、発表になった際に、SNSでのリアクションが予想以上に良くて驚きました。
「そうなんですよね。やはり、音楽界隈の人たち、音好きの人たちはずっと観たかったアーティストで。それに彼らは仮に知らなくてもライブを観てもらえれば、その凄さ、素晴らしさがすぐにわかってもらえるアクトなので、そういう意味でもフジらしいアーティストだなと。で、もう一つがフレッド・アゲイン。僕らは彼に関しても知名度が上がってきたタイミングから、既に追いかけていて。それこそ深夜のレッドマーキーで見せたい、というようなアプローチもしていたんです。でも、やっぱり、この人も海外ですぐにブレイクしてしまって」
●海外では、昨年の段階で既にヘッドライナーに準じたポジションでしたよね。
「そうですね。まだまだ新人なのに、新人ではない規模で状況が動いてしまっていて、深夜ではもう無理だなと。昨年のシザがキャンセルになった時もフレッド・アゲインに声をかけたんですけど、タイミングが合わず。海外アーティストの戦略として、まずはアメリカ、そしてヨーロッパ&イギリスという流れがあって、その次にアジアなんですよね。で、今回のオファーは彼からいいリアクションが戻ってきて、ついに呼べたわけですけど、ああ、フレッド・アゲインもいよいよアジアに目を向け始たんだなと(笑)」
●(笑)。
「結果的に今、凄く勢いのある人を呼ぶことができました」
●では、最後に決まったヘッドライナーが、ヴァンパイア・ウィークエンドだったと。
「ヴァンパイアはコロナ明けの22年に来てくれて以来ですね」
●あの時は特に何かのタイミングではなかったですが、今回は傑作ニューアルバムを提げてのステージになりますね。三者三様のヘッドライナーになりましたが、このバラエティは意図されたものですか?
「意図できたらいいんですけどね(笑)。まあでも、ヘッドライナーをパズルのようにはめていったら、結果的に傾向がばらけた、という感じです。まずヘッドライナーから決めていって、その流れで各ステージのブッキングを組み立てていくので」
●フレッド・アゲイン、フォー・テット、ジェイムス・ブレイクと、今年もエレクトロ系が強力な布陣で。
「フォー・テットはあるステージのトリですね。ステージ名はまだ書けないですが。ジェイムス・ブレイクは19年以来、久しぶりのフジです」
●初日、2日目がエレクトロニック系からジャス、ファンク系まで様々にクロスオーバーした感じで、3日目が王道のオルタナティブ、インディーロックの日というか。
「そうですね。日分けに関しては、各ステージにブッキング担当がいて、最初に動くのがグリーンステージの担当なんですけど。で、グリーンの色がこうなったから、ホワイトはジャンルが被らないようにこうしよう、というように決めていくっていう。もちろん、アーティスト毎の微調整はあるんですけど、各ステージ担当がその日の色を考えて組んでいくので、日分けはその結果なんです。他のステージを意識しながらも、ステージ毎にこだわりがあるという」
●まずは初日から伺っていきたいんですが、エズラ・コレクティヴ、これまた凄く……。
「フジっぽいですよね。彼らはブリット・アワードも獲ったし、今ノっているアーティスト。その勢いのまま来てくれます」
●初日で言うとヒョゴ アンド サンセットローラーコースター、あと土曜のバーミングタイガーなどアジアの注目アーティストがエントリーしていて、これもまたフジの恒例になってきましたね。
「やっぱりフジはアジアから来るお客さんも増えていますし、何よりアジアのアーティスト自身が大きくなってきたのかなと。ヒョゴ アンド サンセットローラーコースターなんてまさにそうですよね。フェスとしてのスタンスは変わっていないんですけど、彼らが以前よりも目立ってきて。バーミングタイガーはNHKの番組で曲が使われたりしていますし」
●K-POPじゃないほうのアジア、というか。
「そう、フジロックらしいアジアのアーティストが注目され始めているんですよね」
●初日はオーケー・ゴーも嬉しいです。
「たまにやりとりしているエージェントから『オーケー・ゴー、どう?』って話がポーンと来て、『いいね、懐かしいね!』って(笑)。ザ・ハイヴスもそうですね。向こうからいきなり話が来て、動くんであれば、ぜひフジで見せたいなと」
●00年代の人たちがベテランとして戻ってくる感じですよね。
「最近は若手のバンドが00年代風のオルタナティブロックをやっているし、20年経つと循環するのかなって」
●逆に言えば、今年の海外勢では大ベテラン、レジェンド級のアーティストはいないですよね。日本の山下達郎さんくらいで。それもラインナップが若い印象になっているんですけど。
「多分、今年はVaundyやSuchmos、Creepy Nuts、RADWIMPS、羊文学といった邦楽マーケットでも大きいアーティストたちを、第1弾で一気に発表したというのも大きいかもしれないですね。そこにフレッド・アゲインのような海外アクトの発表も重なって、そうしたイメージになっているのかなと」
●そもそも、第1弾で60組を一挙に発表したのは、どのような意図があってのことだったんですか?
「通年は、2月の上旬くらいに第1弾を発表していたんですよ。そこでまずは海外勢のみ発表して、3月に邦楽を含めての第2弾、というのが基本パターンで。そんな中で、洋楽を最初に発表して、もちろん反響はあるんですけど、『このアーティストは土曜なの? 日曜なの?』っていうお客さんの声が多くて。『やっぱり日割りが出てから(チケットを)買おうか』という話になりがちで」
●宿の問題もありますしね。
「そうなんです。早々に発表して、お客さんも観たいと思ってくれるんだけれど、『で、いつなの?』っていう。結局、日割りが出るまで買うのを待ってしまう。日程がわからないと予定が組めないですから。なので今回(の一挙発表)はお客さん目線で、もっと予定が組みやすいように、チケットを買いやすいように、ということを考えた結果でした」
●その変化は凄く感じました。
「SNSの書き込みなどを見ていても、今年は若い人が結構反応してくれている、というのも感じますね。この発表の仕方はアリだったな、って改めて思います」
●土曜日はバリー・キャント・スウィムも注目ですね。これは観たい。
「バリー・キャント・スウィムは昨年新人としてクローズアップされたアーティストで、深夜枠でどうだろう、みたいな話もあったんですけど、向こうの押しが新人にしてはだいぶ強気で、予算が合わず(笑)。でも今年は今さらBBC Sound Of 2025で入賞したりと、やはり反響は大きかったので、やっと呼ぶことができました。ライブセットで来てくれるといいんですけど」
●注目の若手ではイングリッシュ・ティーチャーやニューダッドも。
「うん、僕が自信を持って推せる新人はブッキングできたと思います。去年で言うとラスト・ディナー・パーティーもそういうバンドでした。今年の土曜日では、コンフィデンス・マンにも注目してほしいですね。ピコピコで楽しいライブになると思います(笑)。あと、フェイ・ウェブスターもフジは初めて出てくれます」
●パッと見ると、いわゆるギターバンドらしいギターバンドが金・土は控えめなんですよね。
「そう、その代わり、ヴァンパイア・ウィークエンド、ハイムが揃った日曜日がそういう日になっています。毎年こういう日は必ずある、わかりやすい、もう一つのフジロックらしさですよね。ハイムは3月に新曲が出て、ニューアルバムも制作中とのことで、最高のタイミングで久々に来てくれます。あと最終日は、邦楽が目立ちますよね。ROCK IN JAPAN FESTIVALに行っているような人たちも『おっ?』って思うようなラインナップじゃないかと。フジって結局、最後のステージ割りが出た段階で『なるほどね』と、納得してもらえるものになるっていう」
●あと最終日は、これは超個人的ですが、今年一番楽しみな初来日ニューカマーはロイエル・オーティスです。
「ですよね。 僕もオススメは?と訊かれたらロイエル・オーティスと答えます。インディーギターのニューカマーをフォローしている人たちには、『いいセレクトしているな』と思ってもらえるんじゃないかと。彼らが出演するステージの流れも最高なので、期待していてほしいですね」
●最終日はグレース・バウワーズ&ザ・ホッジ・ポッジも楽しみです。10代の天才ギタリスト。
「これは社長の佐潟が『ぜひやりたい!』と決めた人です。よく知らなくても、プレイを観たら凄いのが分かるっていうタイプのアーティストですね。同じ系統だと、SNSでも盛り上がっていたエムドゥ・モクター。あと、初日のマーシンも、ポーランドの凄いギタリストです」
●こうして見ると、テクニック系の人が多いですね。
「ヴルフペックしかり、技巧派が揃っていますよね。これもフジらしいセレクションだなと。一組一組をバラして見ていくと、どれもが皆が知っているアーティストというわけではないですけど、音好きの人たちには刺さるアーティストが多い、面白い第1弾になったなと」
●今年に関しては誰もが知る超ビッグネームはいないと思うんですが、その代わり、総合力というか、全てが噛み合った時の満足感が高いラインナップだと思いました。
「うん、うまい組み合わせで発表できたのではないかと思います。洋楽が多い、邦楽が少ないとかいうことでもないですし、各ジャンルのバランスがいいと言うか」
●今年の第1弾で一斉に発表する方法や、ラインナップの組み方は、今後のフジロックに受け継がれていくんでしょうか
「どうでしょう、ある程度はそうなるんじゃないかと思いつつ……でも、うちの会社は天邪鬼なので、また変わるかもしれないです。一番わかりやすい例が、98年に豊洲で大成功したのに、えっ、次の年には動くんかい!って(笑)。僕はその年に会社に入ったんですけど『なんで動くの?!』って(笑)。でも苗場に行って初めて、ああ、これがやりたいことだったんだ、って理解できたという」
●フェスをめぐる環境はコロナで大きく変わり、コロナ後のインフレやトレンドを受けて再び大きく変わりつつありますが、そうした激動期にあって、フジの今後のビジョンをどう考えていますか?
「一つ、フジロックの軸としてあるのは、僕らは売れればなんでもいいよ、というようなブッキングはしないということですね。時代の変化の中でも、その主催者としての軸はずっと変わっていないんです。その軸は守りつつ、アーティストにも、お客さんにも『フジなら行くよ』と思ってもらえるようなフェスを、色々改革しながら作っていきたいです」
※取材は2025/3/6に実施されました。
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