日経ライブレポート「モリッシー」

モリッシーが在籍していた伝説的なバンドのザ・スミスに「ミート・イズ・マーダー」というナンバーがある。タイトルどおり肉食は殺人であるというメッセージの曲だ。僕が観た日には演奏されなかったが、前日のステージでは演奏された。その時、後ろのスクリーンに動物の殺されるシ―ン、解体されるシーンといったショッキングな映像が流された。あまりにもショッキングな内容であるため、気分が悪くなり席を立って帰られたお客さんもいたらしい。

なにもそこまでしなくてもと普通は考えるが、モリッシーは自分のメッセージを伝えるためならば、どこまでも徹底して容赦しない。日頃の発言も妥協のないものが多く、常に賛否の反応を巻き起こしている。こうしたことを書くと、モリッシーの音楽を知らない方は過激で攻撃的な音楽を想像されるかもしれない。しかし実際の音は、とても美しいメロディーを持ったキャッチーなポップ・ソングである。そこが彼の素晴らしいところだ。

この日のステージも、どちらかと言えばレアなナンバー主体のセットリストではあったけれど、どの曲もポップ・ソングとしての完成度が高く、たとえ曲を知らなくても十分楽しめたと思う。というか熱心なファンが多いのでレア曲だからこそ楽しめたのかもしれない。

1曲目でいきなりシャツを脱ぎ上半身裸になった。一種、お約束のパフォーマンスでもあるのだが客席はとても盛りあがった。黒いシャツに着替えたが、うまく着ることができず、それを最前列のお客が直してあげるのもモリッシーらしかった。ラジカリスムとポップの見事な共有があった。

9月29日、オーチャードホール。

(2016年10月12日 日本経済新聞夕刊掲載)
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