国民の過半数が反対しているのに、何故原発は再稼働されてしまうのか?原発と同じように怖い、その再稼働を支える欲望を検証します。

国民の過半数が反対しているのに、何故原発は再稼働されてしまうのか?原発と同じように怖い、その再稼働を支える欲望を検証します。
今さら原発という声があるのは十二分に認識した上の特集です。もう誰もが原発の危険性や未来のなさを分かっているなかで、何故再稼働がおこなわれるのか?そこを検証することによって、原発の本質的な怖さに迫ろうとした特集です。原発に向かってしまう人間の欲望の闇ともいえるものが浮かび上がって来て、とても怖いです。巻頭の特集リードを少し長くなりますが転載します。

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 ちょっと逆説的な表現になってしまうかも知れないが、脱原発は簡単だとこの特集を作りながら思った。と同時に、とても難しいとも感じた。何を言っているのかわからないと思うので説明したい。
 なぜ脱原発は簡単なのか? それは3・11以降の日本を見れば明白である。福島の事故以降、日本の原発はすべて止まった。日本はつい最近まで脱原発国であった。しかし、そのことで電力が止まったり、原油の輸入が急増して国家財政が破綻したりはしていない。原発がなくても日本の電力事情が崩壊するわけではないのは、ここ数年の現実が証明している。田中秀征さんが言っているように、そのときの統治者が「これから日本は脱原発でいきます」と言えば、脱原発は実現してしまうのだ。そのために、まったく新しい電力供給システムを作りあげなくてはならない、という話ではない。ある意味、簡単なことなのだ。
 しかも脱原発は国民の総意でもある。世論調査をすれば常に6割から7割の人が脱原発を支持している。これは3・11以降、ほとんど変らない数字である。事故の記憶が風化していくと言われるが、国民の原発に対するノーという意志は風化していない。もしも僕が支持率低下に悩む統治者であれば、すぐに脱原発をアピールすると思う。間違いなく支持率は上がる。今、安倍政権が脱原発宣言をすれば、とんでもない支持率になるのではないか。ではなぜ、脱原発は実現しないのか。それがこの特集のテーマである。
 特集を作る前は、脱原発を阻止する強大な欲望のイメージがあった。その巨大な欲望に支配される日本の現状を浮かび上がらせるのがテーマだと思っていた。しかし、実際に検証していくと、ちょっと違っていた。
 例えば東電の問題。確かに問題は巨大だ。補償の金額はどんどん増えて行き、果していくらになるか分らない。結局は電力料金に上乗せして消費者に負担させるしかないところまで来てしまった。残念ながら東電に負担能力がない以上、国民がそのツケを払うしか無いのだ。しかし事故の補償を国民が負担するという明確な図式を示すことにすると、誰かが責任をとらなくてはならないし、原発の在り方を基本から見直すことになる。原発のコストが低いなんてことは嘘だし、その嘘を支えていた電力会社、官僚、政治家の責任が問われてくる。誰が悪いかはっきりしてしまう。当然、当事者達はそんなことはしたくない。だからひたすらごまかそうとする。
 ではその当事者達が、強欲で腹黒い政治家や資本家、あるいは役人達かといえば、そう簡単な話ではない。事故さえ起きなければ原発は便利な電力エネルギーである。産業のない過疎地に建てれば、地方に産業と金が回ってくる。資源のない日本にとっては、原油価格に左右されることなく安定的なエネルギー供給が実現する。安全性に目をつぶりさえすれば、いいことが多いのが原発なのだ。たくさんの欲望が、安全性に目をつぶりさえすれば実現したのだ。日本社会全体がその欲望に走った。そのツケが福島の事故によって一度に回って来た。
 今、僕たちがしなければならないのは、そうした欲望の再検証だ。何が間違ったのか、誰が間違えたのか、何を変えなければならないのか、それを問い直さなければならない。この特集を作っているとき、東芝の巨額負債問題が起きた。まさに今の日本は東芝と同じではないかと思った。
 原発を再稼働したいという欲望は、もともとは原発を押し進めた欲望をルーツとしている。それは安全性に目をつぶればたくさんの便利や楽があるという欲望だ。きっとその当事者それぞれには、その欲望を肯定する理屈があったのだろう。エネルギーの安定供給、CO2の削減、地方の再生、原発にはそういう理屈が簡単に付いた。しかしそこには大きなごまかしがあった。それはとりかえしのつかないごまかしだった。脱原発というのは、そのごまかしと向き合い反省し、やり直すということだ。原発再稼働はそのごまかしを放置し、ごまかし続けるということだ。責任を明らかにしたくない、これまでの仕組みを変えたくない、間違っていたと言いたくない、せっかく楽をしてきたんだから面倒なことはしたくない、という欲望である。その欲望の当事者には自分が巨悪だという自覚はないのだろう。ひょっとすると僕達自身もその当事者なのかも知れない。その構造をこの特集で明らかにしたい。

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